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『おバカ』
間髪入れずに返ってきた単語は想像の斜め上をいくもの
『考え方が単純で行動も幼稚。勉強が苦手で典型的な脳筋おばかさん』
つらつらと出てくる特徴はどれも褒め言葉だと思えないものばかり。
少なくとも好意を向けていた相手に言うものでは無い。
と言うか普段より彼女の口が悪い
「随分と否定的だな、」
『ん〜？だって仲良くないし』
仲良くないだけでこんなにも口が悪くなるものか？
『そんな困惑しなくたって』
「いやだって、」
幼馴染みならもっと大切にしていると思っていたから
『でもいい人だよ？』
「そんな風には聞こえなかったけど、」
『まぁね。……本当におバカで単純な人だよ。愚直で素直で社交辞令もおだても分からない。褒められると直ぐ調子乗るけど、持ち前の明るさで周囲を元気付けてくれる。粗いしガサツだけど無理やりにでも引っ張り出してくれる』
＿＿＿＿そう言う所が好きだったのかも。
『ま、今は生意気なやつにしか見えないけど』
「……割り切ってるんだな」
『うん。未練の欠片もない』
本当に何も気にしていないんだろう。
悲壮感を一切感じさせない瞳に“良かった”と安堵感に包まれる
「(……良かった、？)」
……まただ。
何故今俺は安心しているんだろう。
幼馴染みの情報を聞き出して怒られなかったこと？
彼女の傷を抉らなかったこと？
それとも
幼馴染みに未練がないこと？
『ふふ、そろそろこの話やめよっか』
「ん？あ、あぁ。」
『これ以上話したらバレちゃいそう』
自分の感情に戸惑う俺を置いてイタズラっぽく笑う福地
……ちょっと幼い部分は幼馴染み譲りなのか、
そう考えると急に心に霧のようなモヤがかかる。
＿＿＿＿あぁまずい。
今日の俺は本格的にどこかおかしいらしい。
『……ってごめんちょっと電話出るね』
そんな乱れる情緒を表すように鳴り響いた彼女のスマホのバイブ音にハッとして再び心を落ち着かせる
『＿＿＿今？うん、了解。そっち行くね』
短い会話の末電話を切った彼女は俺を見て申し訳なさそうに頭を下げた
『友達に呼ばれたからちょっと外すね。すぐ戻るから』
「大丈夫。行っておいで」
そう告げると彼女は急ぎ足で教室から立ち去り、教室には俺1人だけとなる。
「……はぁ、」
……まさかこんなにも自分を制御出来なくなるんて思ってもいなかった。
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作者名：八月蝶 | 作成日時：2023年3月16日 16時
