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『……はぁ』
「はは、」
放課後の教室に溜息と苦笑いだけが溶けていく
彼女は手元にある演技用の台本を恨めく見つめ、疲れきった声で話し出す
『結局栞に脚本頼んだけどさすがにこれはなぁ……』
2人でミス・ミスターコンに出なければならない事が決まってから何度か演技の脚本について話したが、双方恋愛系にはめっぽう弱くて
誰かに台本を頼もうと決断した結果がこれだ。
初めは結束に頼んだものの
“何が楽しくて幼馴染みの恋愛モノを想像しなきゃいけないのよ”
の一言で一刀両断された。
それで行き着いた先が宇佐美だった訳だが、
『内容が幼馴染みとの恋って……結がやるべきじゃん』
「そこか？」
内容が内容なだけに彼女は気が進まないらしい。
『幼馴染みと恋、ね。……本当に結じゃなくて平気？』
「あいつをそういう目で見た事ないよ」
心底心配そうな彼女に問われ、そう断言する。
確かに家が近くて幼い頃から何かと行動を共にしてきたが結束は常に妹のような、親友のような。そんな存在だった。
だから結束に恋愛感情を向けたことすらない。
＿＿＿＿＿いや。
そもそも誰かに恋愛感情を向けた事がない気がする
「幼馴染みが初恋なんて創作された世界の話だけだよ」
『……そう？』
何となく彼女には勘違いされたくなくて。
少し冷淡に言い放った時、
『私の初恋は幼馴染みだったけど』
「……え？」
時間が止まったような気がした。
「……居るんだ、幼馴染み」
『うん。家が近くて家族同士の仲が良いの。昔から一緒だったけど結と片桐みたいに仲良くはないんだよね』
切ない話のはずなのに彼女はまるで気にしていないと言わんばかりの表情で笑ってみせる
“仲良くない”けど“幼馴染み”で“初恋の相手”
『年少から小4くらいまでがっつり私の片想い。幼少期あるあるのプロポーズだって私じゃない子にしてたし』
「……そうなんだ」
『ま、初恋は叶わないって言うしね』
そう言ってニコッと笑う彼女にまた鼓動が早くなる
「(……ん？)」
……なんで俺は今動揺してる？
ただ彼女の昔の恋愛話を聞いているだけなのに。
心の中で首を横に振って平常心を装おうにも何故か上手くいかなくて
「……その幼馴染みってどんな人なんだ？」
気づいた時にはそう口走っていた
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作者名：八月蝶 | 作成日時：2023年3月16日 16時
