4 ページ6
｢＿ちゃん。凛月ちゃん！｣
自分を呼ぶ声にハッとして辺りを見回す
必死に伸ばしていた手を掴まれ、水中から地上まで一気に引き上げられた感覚
助かった、
と思うものの月は既に雲に覆い隠されている
＿＿＿やっぱり、彼女はいない。
｢……またあの子？｣
ナッちゃんの質問に思わず口を閉ざす
そんは俺を見て無言は肯定であると捉えたんだろう。
彼は“朝余計な事を言ってしまってごめんなさいね”と言って席を立ち、窓際に手をかける
再び騒がしくなった外を眺めるナッちゃんの瞳に哀愁と悲愴の色が浮かぶ
｢……ねぇ凛月ちゃん。｣
｢なぁに〜｣
｢時計って悲しい物よね。｣
何の脈洛も無い発言の意図が読めず、言葉通りに時計を見上げれば、短針は12と1の間。長針は6を少し過ぎた所を指す。
＿＿＿12時30分過ぎと言った頃か
あれから30分も経ったんだと思うと時の流れが早く感じた
｢……時計の長針と短針が重なるのは1時間でほんの一瞬。
誰も気を留めない内に重なって、また少しずつズレていく｡
時計が壊れて止まった時、2つの針がピッタリと重なっていたらそれはとってもロマンチックな事だと思うわ。｣
嵐の前の静けさ。なのか。
少し静かだと思っていた教室は不気味な程静まり返り、皮肉にも時計の秒針の音だけが鼓膜を振動させる
｢……けれど、そうね。今この時みたいに針が真逆を向いて止まってしまったら、とってももどかしい｣
哀愁で帯びた瞳の意味も、紡がれていく言葉の意味も
分かりたくもないのに分かってしまう。
美しい横顔で“愚かな人たち”と呟いたその言葉は、外ではしゃぎ散らかす生徒へ向けたものか、
＿＿＿＿或いは
｢……何が言いたいの｣
｢これは針が重なった瞬間を捉えられなかった罰よ。
壊れた物をもう一度動かすなら慎重に。二度と一瞬を逃すんじゃないわよ｣
外に向いていた瞳は確実にこちらへ向き、澄み渡った視線が心の雲を晴らしていく
＿＿＿あぁそっか。
最初からバレていたんだ。
ナッちゃんは朝耳元で囁いた段階で俺の策略を見抜いていた
｢(…案外勝てないもんだねぇ)｣
チームメイトの手強さに笑みを零して席を立つ
｢あら、どこか行くの？｣
｢ふふ〜ん、内緒♪ セッちゃんとまーくんにはサボるって言っておいて〜｣
｢ちょっと凛月ちゃん！？！？｣
先程と打って変わった焦る叫び声を背中にルンルンで教室を出る
薄らいだ雲の隙間から月が少し見えた気がした
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 570人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：八月蝶 | 作成日時：2023年3月3日 23時
