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凛月が起きない様に気をつけて音楽室を後にする。


久しぶりに歩く夢ノ咲の廊下は懐かしいはずなのに何も変わっていないせいか随所で彼らとの思い出が彷彿させられる



_____例えば、


天井から鳩と一緒に現れて驚かされたり、

秘密だヨって他の人は知らない通路を歩かせてくれたり、

ノン!!!って綺麗な声が廊下まで響き渡ったり、

びしょびしょのまま校内を散策したり、ね。



廊下を歩くだけでこんなにも沢山の事を思い出させてくれるんだから、きっと今目の前にある扉を開けた先には色褪せる事の無い記憶が詰まっているはず___



そう信じて扉を開くと懐かしい香りが鼻を掠める



『(……やっぱり居るのね)』



時が経とうと褪せる事を知らない存在感に少し苦笑し、彼が眠っているであろうそれ(・・)に腰をかける





『……おはよう。お寝ぼけさん』


虚しく宙に消えた私の呼びかけ。

珍しく反応が無い事に不思議に思ったのも束の間、下方からガン!!と言う衝撃音と共に身体に振動が伝わる


なんだ。起きてるじゃない



『ふふ、亡霊がいきなり現れて焦る気持ちも分からなくはないけど少し落ち着いてちょうだい。


零。貴方が本気で棺桶(これ)から出ようとしたら私が怪我するわ』



獰猛な獣並の怪力を持つ零の事だ。私が棺桶に座ってるだけの状態なら内側からだって簡単に破れる


……けどごめんなさい。
貴方と会う事は出来ないからこのまま話をさせてもらうわね




『凛月に会ったの。見ない内に立派な騎士になっちゃって。大切な人達が出来て、居場所もあって……幸せそうよ』



そこまで言葉を紡ぐと再びガン!と振動が走る

私の言葉を否定したいのか、棺桶から出たいのか、



『だからもう彼は大丈夫よ。私の様な疫病神がいない方が彼はきっと輝ける。……そうでしょ?』


_____ドカン!


『だから落ち着いて。……ってちょっと、暴れな__』


「「おっはようございまーす!!」」











「「え????」」




本当に一瞬の事だった。

下で暴れる零を窘めようとしたと同時に勢いよく開け放たれた軽音部の部室の扉。

その先にいたのは瓜二つの赤ネクタイの2人。つまり双子の1年生


2人は片割れと私を交互に見合い、怪奇現象を目の当たりにしたかの様な顔をしている







やってしまったと後悔が募るがしょうがない。
……計画を無下にする訳にはいかないから







『……突然ごめんなさい。力を貸して欲しいの』

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作者名:八月蝶 | 作成日時:2023年3月3日 23時

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