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「……A?」
ほのかな光の先には髪をたなびかせ、凛とした佇まいでこちらを見据える人
震える声で呼びかければ最後に会った時より遥かにぎこちなく口角を上げてくれる
憂いを帯び、悲しそうな瞳をしているのに月の様に美しい
ずっと会いたかった人物で間違いない。
____ぎゅ、
「A…Aなんでしょ、ねぇ…!!」
『……久しぶり。凛月』
椅子から飛び退き、我も忘れて彼女を抱きしめる
存在を確かめるように何度も名前を呼び、彼女を包む腕の力をどんどんと強くすると呼応する様に俺の身体を抱きしめ返す
たったそれだけが嬉しくて
視界がボヤける程に涙が溢れる
『………今日あなたは来ないと思ってたの』
「ずっと、ず〜っと待ってたよ」
鼻を掠める清潔感のある香り、すべすべな肌、温かな体温
彼女の全てを感じたくてずっと待ち続けた
……たった独り。お姫様への忠誠を果たすために。
辛かった。寂しかった。孤独だった。
『……泣かないで』
「……誰のせいだと思ってるの」
けれど、やっと涙を拭ってくれる人に出会えた。
幸せずきる夢の様な現実を手放すまいともう一度彼女の身体を強く抱きしめる
「ふふ、Aだ。……Aがいる」
『凛月……』
俺を呼ぶ声も俺を映す瞳も以前より明らかに無機質で悲愴的で痛々しくなった事が彼女の心が破壊されてしまった事を教えてくれる。
愛する人を護れなかった自分の不甲斐なさと愚かさに後悔が募る
「……ごめんね」
『……凛月が謝る事じゃないの。全部私のせい。私が傲慢だった。自分の幸せの為に貴方たちの幸せを壊したの。
……今だって私は貴方といるべきじゃない。私が傍にいたら大切な貴方が不幸に____』
「やめてよ!!!」
彼女の悲痛な訴えを邪魔するよるに叫ぶ
急に近くで発された大きな声に驚いたんだろう。彼女がビクッと肩を震わせた
「……いくらAでも許さない。俺の幸せを否定する事もAの存在を否定する事も絶対に許さない」
『でも___』
「俺ね、Aが居なくなって初めて絶望を知った。会えなくなって心からで笑えた事なんてなかった。」
けどね。
「今Aと会えて俺幸せだよ。Aを感じられてすっごい幸せ」
だから、あの時2人で笑った時間を楽しんだ事を“傲慢”なんて捉え方しないで
あの時間はAだけの幸せじゃない
俺たち2人の幸せだったよ。
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作者名:八月蝶 | 作成日時:2023年3月3日 23時