23.未知との遭遇 ページ23
.
｢A、散歩行こか｣
｢…正気ですか｣
思ったよりも低い声が出た
食害に飽き暇を持て余したゾムさんは、あろうことか気絶寸前の私に運動を提案してきたのだ
張り裂けそうな胃袋を抱えて散歩など、並の拷問より余裕できついだろう
全力で断ったが、結局彼に逆らうことはできなかった
__
｢き、気分はどうや｣
｢…おかげさまで｣
当然だが、もどした。
心配するゾムさんに、皮肉を込めて返事をする
私が不機嫌なのを察してか、彼は普段見せない大きな耳を垂れ下げて露骨に反省アピールをしている
別に怒っているわけではないが、色々と言いたいことはある
ギスギスしながら帰路に就いていると、ふと物陰から気配を感じた
｢よぉゾム……は？｣
｢っ！？｣
予想外の出来事に思わず躓く
いきなり飛び出してきたのは、豚の顔をした人型のミュータントだった
一瞬被り物かと疑ったそれは、目を丸くしてこちらを凝視する
｢え…どういうことやゾム｣
｢…うちで飼っとる、ニンゲンのAや｣
挨拶を促され、とりあえず礼をする
こちらを不思議そうに見つめる彼は、トントンと名乗った
｢先に言うけど…食べちゃあかんからな｣
……
自分が対象だと気づくまで、数秒もかからなかった
その気でいたらしいトントンさんはあからさまに肩を落とす
｢手足くらいならええやろ｣
｢駄目や｣
｢…まじで腹ペコやねん｣
｢Aは駄目や。俺が許さん｣
物騒な提案をする彼に、しっかりと釘を刺してくれたゾムさん
無理だと諦めたのか、癖の強い顔面が名残惜しそうに私の顔を覗き込む
｢あの…｣
｢…なんやお嬢さん、随分と肝が据わっとるな。普通のニンゲンは俺見た瞬間泡吹いて倒れるのに｣
…確かに、この光景をなんとも思わない方がむしろ異常だろう
改めて、この世界に慣れてしまった自分に嫌気が差した
｢…こんなニンゲンなかなかお目にかかれないやろなぁ｣
彼は珍しいと感心しながら、徐に指を鳴らした
その瞬間、彼の顔はみるみるうちに変形していく
｢？！｣
｢余計気に入ったわ。ゾム、やっぱ借りるな｣
目の前に現れたのは、豚の面影など全くない誠実そうな男性
混乱する私の手を握り、そのまま森に引き摺り込もうとするトントンさん
｢待てや｣
咄嗟にもう片方の手を掴んだゾムさんは、恐ろしいほど低い声で彼を威嚇した
しかし、彼は怯むどころか不敵な笑みを浮かべた
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 368人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヤンデレ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
へる(プロフ) - るんぱっぱさん» コメントありがとうございます！不定期ですがこれからも応援よろしくお願いします！！ (2022年7月27日 20時) (
レス) id: 0fe9e0073c (このIDを非表示/違反報告)
るんぱっぱ - めちゃくちゃ好きです!!!更新待ってます!!! (2022年7月27日 18時) (レス) @page21 id: c984097aec (このIDを非表示/違反報告)
へる(プロフ) - きうさん» コメントありがとうございます！応援とても励みになります！！ (2022年6月29日 20時) (レス) @page11 id: 0fe9e0073c (このIDを非表示/違反報告)
きう - あ、すごい好きです、はいw めっちゃもう好きすぎて爆発しそううです（？） 更新頑張ってください！！！ めっちゃ応援してます！！！！ (2022年6月28日 0時) (レス) @page10 id: 9c9fedb973 (このIDを非表示/違反報告)
へる(プロフ) - 宮村さん» コメントありがとうございます！ストーリー気に入ってもらえてとても嬉しいです😊 (2022年6月25日 20時) (レス) id: 0fe9e0073c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：へる | 作成日時：2022年6月24日 0時
