勿忘草の丘 ２.【オリジナル長編物語】

66話 若き日の記憶 ページ21

【澪 視点】



私は、どうしても魔法使いになりたかった。

絶対にならなければと、既にボロボロになって動けないはずの心が、強く脈打っていた。



何故かって？



私の宝物でもあるAを、これ以上ひとりぼっちにしたくない。

もう二度と、あんな忌々しい家には帰りたくない。

学習能力のないクラスメイトにも、嫌味しか言えない教師にもうんざりした。

第一、私は普通の人間のまま終わりたくないという願いがあった。



何でそう思うのかって？



だって、私はどんなに頑張っても報われなかったじゃない。

いつも親や教師の期待を押し付けられて、やっと一つの望みが叶えられたと思ったら、じゃあ次

はこれをやりなさいって。

どんなに頑張っても褒めてくれなかったのに、ちょっと答えを間違えただけで凄く怒った。

理不尽だよ、こんなの。



まるで、私達を操り人形のように扱って。

ちゃんと我慢できた人の事は"あたりまえ"って言って、少しでもダメな人がいたらすぐ怒る。

A曰く、「私達は外の世界に出る前の、未完成の商品だよ」だって。

私達みたいに、怒りを覚える人はやっぱりいる。

きっとそれはAだって同じだよね？ 集合の時も怒られたくないから、ずっと黙って静かにし

ているのに、周りの人間がずーっと喋りっぱなし。あの人達は能天気だね。

絶対に許せない。悔しい、憎い、悲しい、妬ましい…… そんな黒い想いが積み重なっていった。

そんな状態になっても、私はそれを発散する方法を探そうとはせず、放置し続ける。

いろんな感情が混ざりあって、そうでもしないと辛い現実から逃げる事ができなかったのだ。



だから私は、魔法使いになっていいと言われた事に喜んでいた。

これから、Aと本当の笑顔で向き合える事に、気持ちが高ぶる。

たとえ故郷で一緒に遊べなくなっても、他の友達に会えなくなっても、構わない。

だって、Aがいてくれるんだもん。

そんな事を考えると、思わず口元が緩む。



「澪、私も嬉しい……… けど、本当に良かったの？」



Aがちょっと困った様な、嬉しそうな表情で、私に問いかける。

私は、心の底からの笑顔で、「うん。私、Aと同じ魔法使いになれて嬉しい！」って。

Aが一緒にいてくれるから、私は笑っていられる。生きていられる。



私、もう疲れたんだ。だからこれからは、ずっと一緒にいてね………





＿＿＿＿＿＿＿＿A。

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