勿忘草の丘 ３.【オリジナル長編小説】

100話 見習い魔導師の本気 ページ10

「おかしいなぁ…… 確かに近づいてきてるはずなのに」



紗羅の淡い水色の光は段々強くなってきている。

目的地に近づいてきているのは事実なのだが、見つからないのも事実だ。

とりあえず適当に城内を歩き回っている。

さすがに夕方までには戻らないと、叔母さんも心配するのに。

ずっと魔物と戦っていた二人も、だんだん疲れてきている。特に紗羅が、一緒に戦っているアレ

ンを守るような形なので余計に疲れている。

戦力となっている二人の内一人だけが疲れているなんて、非常にバランスが悪い。

アレンは前衛に出たいと思っている様なのだが、ちょっと心配性で意地っ張りな紗羅が中々許し

てくれない。彼女はあの街の光景にはあんなに怯えていたのに、たったひとりで。

そろそろ本気で心配してきたようで、遠慮がちにもアレンは紗羅に呼びかける。



「さ、紗羅さん。お疲れなら僕が魔物を倒すので、無理しないでくださいよ？」

「だから、私は平気だってば。そんな事よりも早く片割れを見つけなきゃ」

「あぅ……」



しかし、そんなアレンの言葉など御構い無しに笑う紗羅は前へと進む。

彼女にとっては自分の命よりも片割れを救出する方のが大事なのだろう。

そこまでして守りたい物があるだろうかと思うと、真っ先に世羅と雷華さんの顔が浮かんだ。

えっと、この人達は確か、紗羅の大切なもののひとつ。

確か、月曜日に言っていた、あの言葉の中にある。



"小さい頃から一緒だった大切な人々"



紗羅が守りたい物はそれだ。

そう感心していると、よそ見していた私の側に大きめの魔物が。

魔物は私に鉄のような腕を振り下ろす。その腕は重そうで、一発当たったら死は確定だろう。

あぁ、まだ死ぬ覚悟すらできていないのに。

しかし、私には未だ金槌の様な腕で頭を打たれた感覚がない。



「A、怪我してない！？」

「！ ……う、うん。平気」



ふと意識を戻すと、目の前には綺麗にバラバラになった魔物の残骸が黒い霧を出しながら消滅し

ている所だった。真っ黒なロボットの様な魔物だったので、むせかえる様な血の匂いも、生々し

い返り血も、アレンと私の体にはついていなかった。

その残骸を見た瞬間、もう一度あの瞬間が蘇る。

瞬殺だった。アレンのあの表情、魔法の力、身のこなしまで、全てがいつものアレンと違った。



「気をつけてね、A……」

「ごめん」

「ほらほらみんな、もう目的地が近いわよ〜」

「本当ですか！？」

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