勿忘草の丘 ３.【オリジナル長編小説】

115話 懐かしい母の温もり ページ25

私がクラーレさんの娘だなんて、信じられない。

叔母さんが魔法使いだった事も、何もかも。

おととい世話になったお医者様が、私の母親だなんて。

確かにクラーレさんは他の人以上に私と距離が近かった気がするけど、まさかそんな理由があっ

ただなんて。驚きで言葉が出てこなかった。

なんとかして落ち着いた私は、戸惑いながらもクラーレさんの方を見る。

胸元まで伸びるウェーブがかかった東雲色の髪が、目に映る。柔らかくて、暖かそうだ。

私は彼女とは違う。髪は黒くて、癖が少ないから指がスッと通って、ボブカットより短い。

本当にこの人が母親なのだろうかと、冷静になっていてもそんな考えがよぎる。

本当に私がこの人の娘でいいのだろうかと、自分を疑いたくなる。

私、まだクラーレさんの本名も知らないのに。



「ごめんなさい、Aちゃん。本当はもっと早く言いたかったんだけど、あの時は直美さん達

に止められてたし、雰囲気的に言えそうもなくて……」

「いえ、気にしないでください。そんな事より、ききたいことがあるんです」



もしも彼女を母親だと認めるのなら、まずは本名を教えてもらおう。

もしも彼女を母親と認めず、叔母さんと一緒に暮らすなら、せめて私にAという名前をつけ

た理由を教えてもらおう。そして、これからも仲間として接していけるようにしよう。

もしも私が前者を選んだら、今度後者の質問もするつもり。

クラーレさんは、前者の方を望んでいる。

なら、私は＿＿＿＿＿



「クラーレさんの本名を、教えてください」



私が選んだ道は、前者。

クラーレさんを真の母親と認め、彼女の本名を聴いた。

本当の母親がいないって、やっぱり味気ない。それに、彼女の事は好きだし、素直に自分をさら

け出したいという感情が溢れていた。

私の言葉をしっかりと聴き取ったクラーレさんは、娘が自分に興味を持ってくれた事による喜び

で口元が緩み、若干垂れ目気味の目を細めて優しく答えてくれた。



「えぇ、勿論。私の本名はカトレア・クラーレよ」



カトレア、花言葉は成熟した大人の魅力。彼女にぴったりの言葉だった。

彼女は私の頬を、大切なものを優しく扱うかのように撫でる。

そして、私の身体を引き寄せ、抱きしめた。

柔らかい胸元に顔をうずめ、身体は柔らかい花の香りに包まれる。

東雲色のふんわりした髪が肩にかかり、私の心をより落ち着かせた。

あの時の懐かしい薬の正体は、母の愛だったのかな。

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ラッキーカラー

あずきいろ

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