勿忘草の丘 ３.【オリジナル長編小説】

108話 花ひらく二人の従者 ページ18

私達は百合亜さん達に連れられて、大きな屋敷の前に来た。

ここはフェアヴァルト家。この街の政治を行う家だ。

百合亜さんは常に日傘を差している。だから他の人よりも色白なんだろうか。

紗羅にその事を聞くと、昔から身体が弱くて、体力がないのもそのせいなんだって。

でも、伊達眼鏡なのにはまた違う理由があるらしい。

まぁ、紗羅や世羅の肌も血が通ってなさそうなくらい白いけど。

百合亜さんが片手でノックをすると、クラーレさんの時と同じように人の声がした。

あの時とは違う、低い男性の声。



「こんにちは、バトラーさん」

「こんにちは、百合亜さん。おや、今日はミリヤ様のお好きな林檎を…… いつもありがとうござ

います」

「いえ、ほんの気持ちだから」



扉を開けてくれたのは水色の髪色の執事の様な人。少し長い髪の毛を、後ろで束ねている。

後で紗羅が教えてくれたが、彼の本名はバトラー・エキナセア。

名前がバトラーだからと言って、バトルがとっても強いわけではない。一応出来るらしいけど。

その姿と言葉遣いは、まさにこのお屋敷の執事に相応しいような気もした。

バトラーさんの苗字のエキナセアは花の名前と同じ。真ん中にハリネズミみたいな棘がある。

ギリシャ語のエキノースが元だった気がする。花言葉は貴方の痛みを癒します。

じゃあミリヤって……



バトラーさんの主君であろうミリヤ様ってお嬢様なのか？

結構前にそんなワードを聞いた事があるような気もするけど……

あ、出逢ったばかりの時にアレンが言っていた"お嬢様"のことかも。

確か、私が魔法使いになる一番のきっかけにもなったであろう、お嬢様の頼み事。

そういうのは全部、ここで決められていたんだろうか。



百合亜さんは、彼に林檎が入ったバスケットを手渡す。

あの林檎は屋敷のお嬢様へのプレゼントだったな。



「えぇ、あの子に渡して頂戴。あと、今日はそのミリヤに用があるの。案内してくれる？」

「かしこまりました。皆達もご一緒なさいますか？」

「いいえ、私とクラーレさんだけでいいわ。他は"彼女"に任せていい？」



百合亜さんはそう言い、私達の方向へ走ってくる１０代くらいのメイドさんを見た。

一方、手渡された林檎に気を取られていたバトラーさんは、背後から迫る彼女に気づかない。



「はーい！ みなさーん、行きますよ！」

「うわっ！？ いきなり大声出さないでくれよ、新米メイド……」

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