勿忘草の丘 ３.【オリジナル長編小説】

102話 母性溢れるお医者様 ページ12

城を出た後、アルセニック湖に着くまでそう時間はかからなかった。

木々に囲まれた湖畔に、その小さな家は建っている。

所々欠けている乳白色の壁とダークオークの柱に絡まった蔓は、湖で反射した太陽の光を遮るよ

うに家を包み込んでいる。さっき木々の間に垂れていた蔓と同じものだ。

相当な年季が入っている。クラーレさんは、今おいくつだろうか。

怪我を診てもらうため、世羅は人間の姿に戻った。

妖精がノックをすると、向こうから「はーい」と声が聞こえた。しばらくすると、キィっという

古い扉ならではの音をたてて、叔母さんより少し若い女性が出てきた。

見た感じ、２０代の中間くらい。ウェーブがかかった髪の色は東雲色。胸が…… 結構ある。

医者だからバリバリの白衣をきているのかと思ったが、その白衣の中は案外自由な服装だった。

その大人びた雰囲気に、妖精と寅くん以外は全員たじろいている。

男子２人は、分かりづらいがほんのりと顔が赤くなっている。寅はそんなこと理解していない。

クラーレさんと思わしき人物は、見た目の年齢と服装とは裏腹に、だいぶ大人びた柔らかく優し

い母性溢れる声で妖精に話しかけた。



「あら、ルピナス。お客さんを案内してくれたのね。ありがとう」

「はい。日之影家の魔法使いの方です」



今さら気がついたが、少女の妖精の名はルピナスというらしい。

何処かにそんな名前の花があった気がする。

確か、花言葉は"貴方は私の安らぎ"だった。その名の通り、クラーレさんはルピナスの事を大事

にしているようだ。



「えぇ、百合亜ちゃんから話は聞いてるわ。弟の世羅くんの傷を癒したいんでしょう？」

「別に自力で治せる。こんな傷くらい数時間で」

「できないからここに来たんでしょ！ 変な所で意地をはるのは、世羅の悪い癖なんだから……」



男子の中で唯一、世羅がクラーレさんに冷たい態度をとるのは何故。あと紗羅が怒ってる。

いろっぺぇ割におしとやかなクラーレさんは、そんなこと御構い無しに私達を家の中へ入れる。

仕事部屋の中は少し暗く、乳白色の壁と机の上の棚は、植物と本と薬でで埋め尽くされていた。

窓から入る光が、資料が積まれた机の上を照らす。

世羅はその部屋の隣にある治療室のベッドに寝そべり、上に着ている白い半袖パーカーと真っ黒

なタンクトップを脱ぎ始めた。

その身体には、血の滲んだ包帯が巻かれている。

私達はクラーレさんの家の客間で待っていることにした。

103話 半獣と特殊型の兄弟→←101話 片割れの救出

ラッキーカラー

あずきいろ

勿忘草の丘 ＊作成話 ＆・つぶやき

・中二病って難しいけどかっこいいんです

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す