勿忘草の丘５.【オリジナル長編小説】 (ページ42)

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222話躊躇する少女ページ42

【紗羅視点】

昼よりも冷えてきた夜の空気に、お風呂で温かくなったままの指先をあて、ゆり姉のもとへ向か

う私達。寂しそうな肩を優しく覆っているのは、ゆり姉よりも背が高い悠遠の騎士だった。

気配に敏感なゆり姉でも、一つしか年が違わないちり姉には気を許していて、私はちり姉みたい

になれるように日々努力をしている。

今日もゆり姉の背後にこっそり近づくけど、やっぱり気づかれてしまった。

ふむふむ、白いブラウスに深い赤茶色のロングスカート…… いつもはモノクロのワンピだから、

ゆり姉のこういう格好は意外と珍しいのよね。

「ゆり姉ー、Aっていつ頃に帰ってくるんだっけ。多分夜明け頃よね？」

「……え、えぇ、多分そうだと思うわ」

「ふふふ。心配しなくても、Aには優秀な臣下さん達がついてるんだから。そんなに暗い顔

してたら、折角の可愛い顔が台無しになっちゃうわよー！ゆり姉は何も悪くないのっ！」

ゆり姉はAが連れ去られてから、ずーっと暗い顔をしているの。

明日には帰ってくるって分かっていても、心配なものは心配なままみたい。

星々の明かりに照らされて反射する、銀色の横髪。そこからちらりと見え隠れする青白い頬に、

これ以上足を踏み入れてはいけないような何かを感じて、ゆり姉からの強いオーラにたじろぐ。

……いや、このオーラはゆり姉のものじゃない気がする。まさか、ちり姉？

まぁどっちのオーラかは分からないけど、とにかく強いオーラを感じるのよね。

でも、聞いちゃいけないような気がする。無意識に喉が閉まって、声を出さないように抑えつけ

てるし、今は気にせずにのんびりしていた方がいいのかも。

私は高く結われた白髪を揺らしながら、ゆり姉達の元を後にした。

「澪、腕の調子はどう？あの銃弾、妙な呪術がかけられてたから…… 異常はない？」

「ぜーんぜん、問題ないよ！ Aが帰って来たら、質問攻めの刑に処すってことぐらいはでき

るから！今は私なんかより、ユラさんや百合亜さんの方が大変そうだからね」

「そうなのよー。ゆり姉ったらすっかり萎れちゃって、あれは大分重症よね。ユラだってお父さ

んの件で元気ないし」

あ、そうそう。ユラといえば、お父さんの件でちょっと疑問に思った事があるのよ。

あの人の髪、灰色だったの。灰色といえば、ヒース町の人だけが持つ特有の髪色。

で、紫は呪いの色みたいなんだけど…… 実際どうなのかしら。