【文スト】私は此処に。

12:嘘と真実。 ページ12

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『敦くん、本当にありがとうね』

「いえ、気にしないでください！」






太宰さんが部屋に戻った後、いつのまにか僕の前に現れたAさんは嬉しそうに笑って云った。




頼まれたから太宰さんを助けたのではない。




目の前で同じことが起こったら、僕は迷わず彼を助けただろう。




当たり前のことをしただけだった。








『…敦くん、君はさ』

「はい？」

『ううん、何でもない』







目の前の彼女が、一瞬だけ真剣な目をした気がした。




気のせいだったのかは判らない。




でも、何でもない、という言葉とともに彼女はまた笑うのだった。







「何か、ありました？」

『ただ、、君が良い子だなって思っただけ』

「それほんとですか」

『やだなぁ、本当に決まってるでしょ』







彼女が云おうとしたことは、きっとこれではないだろう。




そう思った。




だけれど、これも嘘ではないだろう。




何故かそうとも思えて、悪い気はしなかった。








『さて、鏡花ちゃんが待ってるよ』

「あ！僕、戻りますね！おやすみなさい、Aさん」

『うん、おやすみ敦くん』







ドアを閉める時、彼女の姿は既になかった。






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