. ページ5
.
コツコツ、という二人の足音以外にいくつか微かに他の足音が聞こえる。それ以外には何も聞こえない。
一般人を巻き込まないようにするためにはどうしても、人気がないところを歩くしかなかったのだ。
『太宰さん、太宰さん』
「なぁに?」
『私、お腹すきました』
太宰は驚いた。敵に悟られないように出来るだけいつも通りにするように云ってあったが、彼女は怯える様子もなく、本当にいつも通りだったからだ。
もう少ししたらどこか行こうか、と返し、少し足早に歩みを進める。背後の気配はいつもより多い。
全ては太宰の予測通りだ。決着をつけるつもりの今日。そして相手も同じだった。
全て予定通りだ。そう、全て。
「ねぇA」
『何です?』
「私ね、探偵社に帰ったら君に聞きたいことが沢山あるんだ」
『奇遇ですね、私も太宰さんに用事があります』
だからまあ、仕方ないですよね、とAは呟いた。
刹那、太宰の足元に銃弾が落ちる。ーー狙撃だった。
銃弾は作為的に逸らされ、太宰は直撃を避けることができた。時間、軌道、角度、その全てを寸分の狂いなくこなさなければこんなことは起こらない。
太宰には狙撃手が居場所を知られたことを悟り、撤退する姿が微かに見えたような気がした。
「……A」
太宰に名前を呼ばれたAはすぐには返事をしなかった。先の奇跡のような銃弾を放った拳銃を迫り来る敵に向けて、ただじっと、視線を送っていた。
『太宰さん、帰ったら、私の話聞いてくださいね』
「うん、もちろん」
危機的状況なのに人懐っこい笑みを見せるAに太宰も返す。しかしそれは、どこか悲しそうに見えた。
ーーー銃を構えるその姿が重なった。
ーーー敵を見据えるその目が重なった。
太宰には、彼女の全てが "彼" と重なって見えていた。
「A、探偵社は人は殺さないよ」
不意に出た言葉だった。Aは驚いたように彼の方を向き、そして再び、笑った。
『大丈夫です、私は人を殺しません。
だって人を殺してしまえば、小説家になる資格がなくなってしまうでしょ?』
それは、懐かしいあの言葉に、ひどく似ていた。
.
24人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
碧 - 感動しました!完結おめでとうございます! (2018年11月18日 15時) (レス) id: 1914631717 (このIDを非表示/違反報告)
ANN(プロフ) - 感動しました。感動しました。完結おめでとうございます(*>∀<) (2018年11月18日 15時) (レス) id: 0ad3bbb3df (このIDを非表示/違反報告)
あーやんの向日葵畑(プロフ) - 完結おめでとうございます(^-^) (2018年11月18日 13時) (レス) id: e1d97e38a0 (このIDを非表示/違反報告)
あーやんの向日葵畑(プロフ) - すごい、こんなに感動したのは久しぶりです。 (2018年11月18日 13時) (レス) id: e1d97e38a0 (このIDを非表示/違反報告)
琴吹(プロフ) - 最高でした。 (2018年11月18日 12時) (レス) id: 0c8e621b62 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ろろみや。 | 作成日時:2018年11月17日 23時