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伝えるべきことを伝え、二人と別れたAは一人帰路についていた。
と言っても帰る場所はないし、待っていてくれる人もいないのだけれど。
ここから先は敦次第。
彼がどうするかによって、自ずと彼女の行動も決まってくる。
全ては明日にならなければわからない。
「やぁ、美しいお嬢さん。少し私とお茶でもしないかい?」
若干の憂鬱感があった。
悲しいのかもしれないし、悔しいのかもしれないし、寂しいのかもしれない。
わからなくなった感情を抑えていると、背後から声をかけられる。
初対面だけど、聞いたことのある声にAはゆっくりと返事をした。
『初めまして、太宰さん。盗み聞きをしていましたね?』
「初めまして、Aとでも呼べばいいのかな?」
『ええ。そもそも私には中島Aという名前しかありませんから』
太宰治。
彼のことを、Aはよく知っている。
十四になった彼女が探偵社を訪れた時、ただひたすらに冷たい視線を送り続けた男。
Aの推測が正しければ、敦が死ぬ一日前に、事の全容を理解し彼に警告をした男。
ただ、未来の太宰と子供の彼女は一度しか出会ったことがなく予測をするのは遅れたし、敦が聞くこともなかったのだけど。
「私にしたら信じがたい話だったのだけれど、君が未来から来たという証拠は?」
『内容は知りませんけど、これを』
Aは手帳に挟まれた手紙を太宰に渡す。
それは、未来の彼から過去の彼への手紙だ。
内容は彼女も知らない。
だがそれを見せれば過去の自分も信じる、と言っていた。
「……そうか。これは確かに私が書いたものだね」
もちろん何故だかわからないけれど、太宰は深く頷いた。
太宰と乱歩は敦が変な女と出会ったといち早く気づく。
そして何かしらの行動をする。
だから二人から手紙を預かってきたのだ。
この作戦に、協力してもらうために。
手帳には、これからどうするべきか書かれている。
未来の太宰が書いてくれた道しるべ。
ここで彼に出会うのも、そのうちの一つだ。
『父は死ぬ間際、笑っていました。私に殺されると知っていたはずなのに、大丈夫だと言っていました』
「それが中島敦だと、君は知っているだろう?」
『……その中島敦を救うために、頼みますから手を出さないで下さいね』
乱歩への手紙を託し、懇願した。
彼らが手を出さないことが、目的達成には欠かせなかったから。
彼らが力を貸せば、Aの望みは叶わなくなってしまうから。
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砂木雲雀 - 感動しました…!久しぶりにとってもいいお話を読めた気がします。ありがとうございましたぁあ…!!! (2019年6月23日 14時) (レス) id: f363e24a01 (このIDを非表示/違反報告)
真綺 - めっちゃ感動しました!! ありがとうございました!! (2019年6月23日 13時) (レス) id: 06efcbf80c (このIDを非表示/違反報告)
柊まふ(プロフ) - とても 泣きました……!神作品を、ありがとうございます (2019年6月23日 12時) (レス) id: 9a5360aa7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ろろみや。 | 作成日時:2019年6月23日 2時