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『ちょちょちょちょちょ、止まりなさい少年。こんな美味しい話はないだろう? ただで願いが叶うんだぜ?』
「いやいや、美味しい話すぎて怖いんです!」
すごい勢いで逃げる敦を追いかける女。
突然のわけのわからない提案に、定まらない口調。
どこからどう見ても、やばい奴だ。
『わかったわかった。そうだ、まずは茶漬けの大食い、というのはどうだろう』
「茶漬け……?」
食いついた、と女はニヤリと笑う。
こうなることは想定済み。彼が茶漬けのその言葉で立ち止まるなど、端から知っていた。
ふふふ、と表情を緩ませる女に、敦は怪訝そうな顔をした。
いくら思考を巡らせても彼女のことは知らない。
やはり初対面のはずなのだ。
『さて少年。私としては全ての願いを叶えてあげたいのだが、どうにも時間がない。もちろん一つは茶漬けでも良いが、三つの願いを叶えよう』
「えっと、たらふく食べさせてもらえるのはありがたいんですが、何故僕の願いを?」
『あ、遠慮はないのね』
敦の問いも、尤もであると言えるだろう。
知らぬ相手が突然自分の願いを叶えてくれる。
含みはないように見えるが、危ない匂いがしなくもない。
そう思っていて遠慮がないのがどうも彼らしいのだけれど。
『少年は知らないだろうけど、君は私の恩人なのさ』
「恩人だとそうしてくれるんですか?」
『そうくるか……それなら君は、何故人を救おうとする?』
うまく納得いかなかった敦に、女は別の視点から話を広げる。
漠然とした質問だが、彼にはこれがしっくりくると思ったのだ。
敦のような人間は、きっと誰にでも隔てなく手を差し伸べてくれるのだから。
『そう聞かれると悩むだろう? それと同じだよ』
「同じ、とは」
『理由なんてない。ただ私が恩を返したいと思ったから、それだけってことだ』
そういうことだよ、と言い、女は敦に手招きをし、歩き出す。
目的地はまだない。
とにかく敦の願いを聞いてからが、始まりだ。
『私はA。敬称も敬語も好まないから今後は外すように。
……まあ、君と違って何の力も持たないただの一般人だよ』
「僕は中島敦。武装探偵社の調査員で」
『知っているさ。何せ私は、君に命を救われた女なのだからね』
彼女は両手を広げて、笑ってみせる。
見覚えはないけれど、人を救えていたことに敦は嬉しさを感じた。
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砂木雲雀 - 感動しました…!久しぶりにとってもいいお話を読めた気がします。ありがとうございましたぁあ…!!! (2019年6月23日 14時) (レス) id: f363e24a01 (このIDを非表示/違反報告)
真綺 - めっちゃ感動しました!! ありがとうございました!! (2019年6月23日 13時) (レス) id: 06efcbf80c (このIDを非表示/違反報告)
柊まふ(プロフ) - とても 泣きました……!神作品を、ありがとうございます (2019年6月23日 12時) (レス) id: 9a5360aa7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ろろみや。 | 作成日時:2019年6月23日 2時