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「女の子みたい」
と言われたのはいつだったか。
他の人よりも声が高く、声変わりも遅かった俺は、中学の合唱コンクールでは女子のパートに加わることが多かった。
「有栖川くんって私たちと同じパートなの?」
「……うん、そうだよ」
「そうなんだ!一緒に頑張ろうね!」
気を遣って声をかけられたりしたが、実際のところ迷惑だったはず。女子の中にぽつんと男子の俺が1人だけいるのだ。気まずいったらありゃしない。
学校に良い思い出はなかった。
「A、学校は?」
「休む」
「また?大丈夫なの?」
「ん」
「お大事にね」
妹は不安そうな顔をして、呆れた様子だったのを今でも覚えている。
◆
「……めちゃくちゃ面白いじゃん」
そんなつまらない生活を変えたのがアニメだった。
最初は携帯で見ていたけど、最終的にはお店に行ってDVDをレンタルするまでにハマった。
しかし、当時はアニメを見ていることを周りの人には言えなかった。アニメを見ている人はオタクだからとかなんとか耳に入ってきたことがあるから。
だから俺は1人で多くのアニメを見るようになり、そして同時に声優という職業にも目を向けた。
昔から人を喜ばせたい仕事に就きたいと思っていた。きっかけというきっかけはあまりないけど、そう思っていた自分にとって声優は夢を叶えられると感じていたのだ。
「A、お母さんがいるから静かにしてね」
「はい……」
しかし、夢を叶えるまでには多くの時間がかかる。特に実家暮らしの俺は養成所以外で練習する場所がないという状況に陥った。
「お、公園じゃん」
休日のある日、気分転換にと昼過ぎに散歩していると公園を見つけた。誰もいない小さな公園。1人で過ごすにはちょうど良い場所で。
「あー」
少しだけ声を出してみる。なかなか良い。
ここなら練習できるかもしれない。
それから少しの時間声出しをしていた。集中しすぎて近くに人がいることすら気がつかなかった。
「綺麗な声ですね」
「あ、ありがとうございます……!」
だからあのとき淳弥くんが綺麗な声だと言ってくれたことが何よりも救いだった。
声に出して泣きたかった。
今は淳弥くんと出会えて本当に幸せだと感じている。
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作者名:のん | 作成日時:2023年8月4日 20時