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__これも少し昔の話。
◇
あるトークイベントで、キャスト同士の呼び方はどうなっているのかという話題になった。
「榎木さんと有栖川さんは共演が多いという印象がありますが……」
司会の女性がそう呟くと、先に榎木さんが口を開いた。
「そうですね。最近は有栖川くんと一緒にお芝居をすることが多くて、楽しいです」
「僕も!」
「ふっ……あ、笑っちゃったごめん」
「僕も、すっごく楽しくて!色々と学ばせてもらっています!」
このときの俺は緊張よりも楽しいが勝っていた。マイクを使って喋っていたにも関わらず、マイクのことは忘れて大きな声で喋っている俺はテンションが高い。
「お互いに、榎木さん有栖川くんという呼び方なんですか?」
話題が変わって、ふと俺の中でチャンスだと確信する。こういう機会を待っていたかもしれない。
「そうだね?」
「名前で呼んでほしいです」
「真顔はやめて」
隣に座っていた榎木さんの目と(ガッツリ)合わせる。すると苦笑いをしながら怖いよと言われた。俺にとっては大事なことなのだ。
「じゃあ、ありすくん?」
「それ名字!」
「冗談冗談。Aくん?」
「はいっ!」
「笑顔が眩しい。これが若者ですよ」
あなたもまだ若者ですよ、とツッコミを入れて会場内に笑いが広がる。
やっと、やっとだ。ついに名前を呼んでくれた。嬉しすぎる。最高に幸せだ。
「で、俺は?」
「淳弥くん!」
「榎木さんから淳弥くんって飛ばしてきたね?」
「ずっと呼びたかったので!」
そう言って俺はその場に起立すると驚いたのか、えの……いや、淳弥くんの肩がびくっと上がった。
「じゃあそう言ってくれたら良かったのに」
「え」
◇
現在。
「ありすー」
「…」
「有栖川」
「…」
「A」
「はい」
「…遠慮がなくなった上にめんどくさくなったなぁ」
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作者名:のん | 作成日時:2023年8月4日 20時