57:ハムスター可愛いね ページ10
「…ピーマン」
「美味しいよ」
「…」
翌日。どうぞどうぞと無理矢理椅子に座らされ、テーブルの上にはピーマンの肉詰めと白米がある。
さぁさぁ、と言わんばかりに目の前に座る彼。
じっと少し彼の顔を見てから、いただきます、と言ってぱくっと一口食べる。
「…美味しい」
「良かった。これでピーマンは食べれるね」
「…」
「返事は?」
「…はぃ」
最近、この人の思うがままな気がしてならない。
「一緒に食べないんですか」
「今はAを見てるだけでいい」
…食べづらいな。
モグモグと口と手を動かし、黙々と食べる。一方、彼はテレビを見て、あハムスター可愛いと動物特集に癒されているようだ。
__それから。
「…あと1つ」
「食べてくれないの?」
「っ、う」
頑張ってピーマンの肉詰めは残り1個となった。少し大きめのピーマンで、その分肉が多いのは嬉しいことである。
でも、やっぱり最初からピーマンは難易度高すぎですよ。
「じゃあ食べさせてあげよっか」
「え、待ってくださ…っ」
「はい、あーん」
「じ、自分で食べますから」
「1回だけ。ね」
「〜っ」
無理矢理という言葉で表現するのが正しい。席を立ち、私の右手から箸を取って、ひとくちサイズに切って食べさせようとしている。
とにかく所謂“あーん”をしたかった様子で、ほら、と笑顔で早く食べろと念を送ってくる。普通に怖い。
「ん」
「美味しい?」
「おいひぃ、ですよ」
「良かった」
満足したみたい。
私はよく右で噛む癖がついているから今は頬がぷっくりと膨れている。
「さっきのハムスターみたい」
「んぐっ」
こっちの気持ちを知らないで、つんつんと頬をいじってくる。
「…ハムスターは可愛かったですね」
「うん。肉と魚を幸せそうに食べるAみたいで可愛かった」
…ハムスターと同じように見られている?
「私のことどう思ってるんですか」
「可愛い小動物」
「…」
え。
*
「最近何かぽっちゃりしてない?」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「誰だろうね」
お風呂から上がって、少し体を捻っていると彼からそう言われてしまった。…お腹付近を触ろうとしてきたので全力で逃げた。
正直、淳弥さんのご飯はとにかく美味しい。最初は涙が出そうになるくらいに。
__このままじゃ駄目だ。あの手を使うしかない。
378人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:のん | 作成日時:2023年3月11日 19時