78:ずっとひとりぼっちです ページ32
「明日どうする?」
と、先ほど不機嫌だったのが嘘のように、淳弥さんは話しかけてきた。明日は私も彼もオフである。かと言って一緒に外に出かけることはない。
「すみません。私用事があって」
「…用事」
用事があると言っただけでじっと目を合わせてくる。これは“用事の内容は何なのか”と言わなければいけない雰囲気だ。隠す必要はないし大丈夫か。
「はい。両親の墓参りです」
その時、え…と彼は声をこぼした。同業者の中では誰1人としてこのことを言ったことはない。驚くのも当然だ。そして反応にも困るだろう。
少し沈黙が続いてから、淳弥さんはこう提案した。
「俺も一緒に行っていい?」
と。
*
翌日。
「…免許失効とか」
「運転よろしくお願いします〜」
毎年、両親の墓参りは車で行く。だから私の車を置いている自宅(マンション)のところまで行って、さぁ運転しようと思ったら淳弥さんは免許を失効しているということを聞いて驚く。
いや、元から私が運転して行く予定だったから大丈夫だけど…と、念のため淳弥さんには後方座席に座ってもらった。
「はぁ…。普段はどうしてるんですか」
「時間がある限りは散歩で」
「散歩…いいですね。今度から私も歩いて行こ」
「一緒に行く?」
「嫌です」
いつもは1人だった。しかし今日は彼がいる。車の中が賑やかで楽しい。
「ふふっ、実はAのCD持ってきたんだよね」
「え、ちょっとやめてください。恥ずかしいです」
だけど、そろりと私のCDを入れて音楽を流さないでほしいものだ。全力で止めた。
「…綺麗」
「良いところです、ここ」
喋っているとあっという間に墓地に着いた。都心部から離れ、木々や田畑があるところに両親の墓がある。実家がここなのだ。もう家は取り壊してなくなっているけれど。
近くに車を置いて少し歩く。淳弥さんは周りを見ながら私の後ろをついて行く。
「俺、いない方がいいよね」
「いてください」
墓の前に着いて、持ってきた花をお供えする。
__今日が両親の、特に母の命日なのだ。
「大切な人ができましたって報告しないと」
だからいてください、と私は彼の洋服を少しだけ引っ張った。
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作者名:のん | 作成日時:2023年3月11日 19時