67:敗北を感じた人間 ページ21
「へぇ、オリジナルか」
「はい。色々力が入っているみたいで、ラジオやSNSを中心にやっていくみたいです。結構動画を撮ったので、…あとから投稿されるかな」
「頑張ってるね」
「!はい」
(彼の)家で、やっと情報が出たのでオリジナルアニメに出ることを伝えた。まだ放送は先なのでこれから収録していくことになる。
淳弥さんは公式アカウントを確認し、最初に投稿された動画を見る。
「……へぇ」
「?」
短く、普段よりも低い声で返事をした様子が気になる。
…私はいつも通りだと思うけど。
「そういえば、淳弥さんってボイトレいつしてるんですか」
「Aがお風呂に入ってる間か、いない時」
「え」
…最低でも1時間はするって言ってたよねこの人。
*
現場に着いた時はしっかりしていて、笑顔が素敵な男性だと思った。
しかし、アフレコが始まってから、雰囲気というか空気が一瞬で変わった。
そう、圧倒的な差を感じた。これが所謂天才というもの。
活動期間は関係ない。
今、隣にいる彼は天才だと。
私よりも、全然____。
「お疲れ様です!」
「お疲れ」
休憩時間になって、伊月蓮くんからお茶を貰う。一口飲んで、はぁ、と短く溜め息をついた。
「__榎本さんのお芝居、心打たれちゃったんです」
私が出演している作品を見ていたようで、純粋に裏表のないまだ少し幼い笑顔で、そう言ってくれた。言ってくれたのに。
「ありがとう」
素直に喜べない自分がいる。
だって彼の方が上というのはわかっている。
これから先この業界を引っ張っていくんだと。
___敗北を感じた。
「ラジオも始まるらしいですね」
「そうだね」
「僕、ラジオも初めてなので榎本さんに迷惑かけてばっかりですけど…」
「ううん。これから少しずつ頑張っていけばいいよ」
…迷惑って。私の方が迷惑をかけている。
収録までに何度も台本を見返した。原作がないオリジナルだからキャラクターがどう話すのか、試行錯誤をしながら考えていたのに。
普段よりもリテイクを多くしてしまった。
「……いいなぁ」
彼を羨ましく感じる瞬間が今日だけでもたくさんあった。
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作者名:のん | 作成日時:2023年3月11日 19時