49:緊張と期待と合鍵 ページ2
「私は何をすればいいですか」
と、彼女はそう言いながらソファに座る。そして同時に俺も座り直した。
「ちょっと待って」
「?はい」
これってもしかすると俺好みに育てられるってことか。何それ最高?と良からぬことを考える。…ゴホン。冷静になろう。
「1つ聞くけどそれは本気?」
「はい。すみません。疎くて」
「…そういえばこの前…恋愛映画の主人公、やってたよね」
「あぁ、はい。でもあれはフィクションなのでリアルと別で考えていました」
なんというか、そう考えてそうだなと聞く前に思った。現実的に考えてそうだよな、この子。…ということでこれから聞きたいことを聞いていこうと思う。
「…付き合った経験は、」
最初に聞こうと思っていたこと。失礼だよなと思いつつ、そんなことは彼女は思っていなさそうだ。何も考えずに答えてくれるはず。
「ないですよ」
即答だった。俺はすー、と深く呼吸をする。
「じゃあ、全部初めて?」
「はい」
「緊張は」
「してないです」
「え、なんで」
“実はしてるんです”と少し照れながら言う彼女の姿を想像したのに。なんてことだ、俺は今試されているのか。逆にこっちが心臓バクバクでうるさい。
「なんで…って、あなたはそんなにすぐ手、出しませんよね」
「臆病って言われてる?」
「そこまで言ってないですよ」
「だって男と女が同じ部屋にいるって誰でも期待するでしょ」
「そうですね」
予想外のことが起きてしまった。
俺が動揺している間に、隣にいるAはまだ早いのでニュースはないですねとリモコンをぽちぽちと触っている。
俺が手を出さないとわかっているから余裕そうに。へっ。
あぁ、そうだ。俺はふとあることを思い出した。
リビングにある棚の中にあれを入れていた気がすると思い、ソファから離れて探す。よし、あった。
「これ」
彼女にあるものを渡した。
「鍵…」
「合鍵あげとく。いつでも来ていいよ」
「ありがとうございます」
あるものとは俺の家の鍵である。
「あー待って。いつでもじゃなくて、週に1回は来てほしい」
いつでも来て良いよという思いがあったが、やっぱり彼女には会いたい。
「…私、毎日来ますよ」
「え」
「だって1人は寂しいじゃないですか」
そう言ったAは鍵をぎゅっと大事そうに両手で握りしめた。ニコッと笑みを浮かべて。
どうしよう。
もしかして俺“が”振り回されている気がする。
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作者名:のん | 作成日時:2023年3月11日 19時