52:きっかけはほんの些細な出来事.2 ページ5
家で身支度を済ませてから、午後の仕事に向かう。
駅を出て少し歩く。歩きながら鞄の中を確認すると、飲み物が入っていないことに気付く。
…ここしかコンビニがないから仕方ないと言い聞かせる。
そう、私が今から入るコンビニは以前アルバイトをしていた場所。まだ新人時代で、両立していた頃。
「あ!Aさん!?お久しぶりっすね!」
「!久しぶり」
あまり行きたくはなかったものの、アルバイト時代に一緒に働いていた彼の姿があった。まだここで働いているようだ。
__彼は大学受験のために働いていると以前言っていた。浪人生である、と。受験料は自分で出せと親から言われていたようで。
しかし私が辞める前に大学に合格した、という報告を聞いた。一緒に喜んだっけ。懐かしい。
「最近凄いですよね!俺いつもCD買ってます!」
「嬉しい、ありがとう」
「へへっ」
今お客は私以外誰もいないようで、レジで少しお喋りをする。
ちなみにだが、当時私が声優をしていると話をしてから彼は私のファンであるらしい。
「最近どう?大学楽しい?」
「はいっ楽しいです!それに…彼女ができたので」
「彼女…!おめでとう」
大学といえば、出会いがたくさんあるんだよね。笑顔で話す彼の姿がキラキラと輝いている。
「ありがとうございます!…実はAさんのおかげなんです」
「え?」
「彼女もAさんのファンで、俺がAさんのグッズをつけていたら話しかけられて、それから仲良くなったんです」
「すごいなぁそういう出会いもあるんだね」
受験勉強とアルバイトで時には顔色が悪く、心配な部分をあったけれど…。今の話を聞いて私も自然と笑顔になった。
「もう毎日が楽しいです!…って俺の話ばかりっすね。Aさんは最近どうですか?」
「うん。毎日が楽しいよ」
そう言った後、彼は、これ以上は何も聞いてこなかった。
俺の推し、榎本Aさんの人気がすごい。
ライブは彼女と一緒に現地参戦をしたことがある。もとちゃんすごいね!可愛いしかっこいい!と話して盛り上がったりしているのだ。
「…お互い、本当に良かったです」
何か良いことがあったのかな。マスク姿だったけれど、目を細めて笑って幸せそうだった。
「もしかして結婚…?いやいや、え、うーん?」
俺は今日1日中、上の空だった。
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作者名:のん | 作成日時:2023年3月11日 19時