22 拗ねる ページ25
あのことを聞いてから、その日は全然眠ることができなかった。
目、充血していないかな。
とにかく今日も仕事を頑張ろう。私情は頭の端に置いて。
「おはよう、淳弥!」
「…。」
それから頭がぼーっとしたままでリビングへ行った。
すると、なんと珍しく姉が起きていた。台所で何かをしているようだったが、“そんなこと”は今の俺には考えられなかった。
「?どうしたの、淳弥。」
「…いや。」
駄目だ、俺。しっかりしろ。
姉はいつも通りであったが、俺の様子が変であることに少しは気付いているようであった。
仕事中でも無意識的に溜め息が出てくる。
椅子に座り、台本をペラペラとめくる。
なぜ俺はこんなに傷付いているのだろう。いや、これは“傷付いている”のか?自分でもよくわかっていない。
「榎木さん、今日溜め息多いよね。」
「どうされたのかな。」
マネージャーや仕事仲間がこそこそと俺のことを心配しているらしい。
なんというか______自分らしくない。
家に帰り、今日も姉と一緒に夕食を食べる。
いつもは喋ったりしているけれど、今日は無言だ。しかし、向こうから口を開き、静かな時間は終わる。
「淳弥、元気ないよね。どうしたの?」
「…なんでもない。」
嘘だ。
「何か気に触ること言った?」
「…まぁ。」
「え!?何!?」
嘘をついていても何も進展しない。正直に言おう。
「結婚願望あるって初めて聞いてびっくりしちゃった。」
「!」
「いつか、結婚するんだなって。」
あーもう。自分で言っておいてなんだ。恥ずかしい。いい歳した俺がこんなこと言って。子供だ。
姉の顔を見たくないので、顔を下に向ける。すると、
「あー実は麻沙美ちゃんとさ、そういう話になっちゃって。淳弥みたいな人と結婚したいなーっていう…。」
姉は申し訳なさそうにそう言った。
「願望はあるっちゃあるけど…。」
“(俺みたいな人と)結婚するという願望がある”ということ?
なんだそれ。俺は“ふっ”と鼻で笑う。
「これは姉ちゃんが悪い。」
「ごめん!」
「え。拗ねてたの?」
「ううん。」
その後、姉はじっと俺の顔を見てくる。ニヤニヤして。
「淳弥、拗ねてたんだ?」
「だから違うって。」
「ふーん?」
「イライラする。」
「ちょっと!?」
…明日からも仕事、頑張れそうだ。
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作者名:のん | 作成日時:2021年10月17日 10時