【d!】さざ波が立つ【合作企画】 (ページ10)

今日:4 hit、昨日:1 hit、合計:4,931 hit

↓ ページ10

*°

『ぞむ、どこから、きた？』

ぴちゃぴちゃと尾びれを水面に叩きつけながら不意に彼女は問うてきた。
視線をそちらに向けると、好奇心いっぱいに瞳を輝かせた彼女が映る。
思わず吹き出しながら頭を撫でると、不思議そうに首を傾げた。

「海賊船」
『…かいぞくせん？』
「船」
『ふね…』

ふね、ふね…と何度も繰り返す彼女にもわかりやすいように砂の上にイラストを描く。……お世辞にも上手とは言えないようなイラストだったが、船を知らない彼女からすると魅力的だったのか、『じょーず！じょーす！』としきりに声を上げていた。

『これ、ふね？』
「これが、船」
『すごい！』

キラキラと輝く瞳。
どうせなら本物をみせてやりたいな、と少し思う。
生憎人魚だから本物に乗ることは出来ないだろうが、遠目で見ることぐらい許されるのではないだろうか。

……もう俺には、時間が無いから。せめて、ひとつくらい望みを叶えてやりたいのだ。

「…もうすぐ、俺の仲間も来るやろうしな…」
『？…ぞむ、なに？』
「なんでもないで」

もしもの時のために持っていた発信機。
仲間のひとりが必死になって作った、水に暮れても大丈夫な便利アイテム。
チカチカと赤い光を点滅させているのを見ると、俺の仲間は明日にはこの島にたどり着くかもしれない。

その時に一目でもいいから彼女に俺らの船を見せてやりたいと思うのは、きっと俺が彼女に心惹かれてしまったからだろう。

『ぞむ、すごいねぇ』

………ここまで仲間が迎えに来ることを嫌に思ったのは、はじめてだった。