【d!】さざ波が立つ【合作企画】 (ページ8)

今日:10 hit、昨日:1 hit、合計:4,937 hit

↓ ページ8

「―――…？」

瞼が上がる。
瞼の下から覗くのは、ライムラスのような色彩を持つ綺麗な瞳。
そのあまりの美しさに、私は思わず息を飲んだ。

彼は私に気が付かない。
まだよく脳が働かないのか。

彼はぼんやりとしながら体を起こす。
水滴の滴るブラウンが、夕焼けに照らされて赤く染まった。
きょろきょろと不思議そうに辺りを見渡す彼。

―――不意に、彼の視線が私を射抜いた。

「…は、…？」
『おはよう、ニンゲンさん』

私を視界にとらえた途端、目を見開いて硬直する彼。
彼の視線は私の尾びれに集中している。

混乱しているらしい彼にぐっと詰め寄ると、私は問答無用に彼の手を取り話しかけた。

『私まさか本物のニンゲンに会えるなんて思ってもなかったわ！あなたお名前は？どこから来たの？どうして海に落ちちゃったの？ニンゲンって何を食べるの？ここまでどうやってきたの？ねぇ、教えて！』
「―――！―――！！？」

動揺したように瞳が揺れる。

ごめんね、びっくりしちゃうよね。こんな見ず知らずの生き物に突然声をかけられたら。
だけど私も気になっちゃうの。

ねぇ、教えて？

期待を込めてじっと見つめる。
すると口をぱくぱく動かして、彼は何かを呟いた。

『……？何？なんて言っているの？』
「―――――？」
『え？…言葉、通じないのかな』
「―――――！」
『…せめて、お名前だけでも聞きたいんだけど…』
「―――――」
『ねぇ、なんて言ってるの…？』

…あぁ、ダメだ。言葉が全く通じない。
今私は、その事実を痛感してしまった。

彼も必死に私の言うことを理解しようと耳を傾け、ウンウンと頭をひねっている。

やっぱり生きている場所が違うから、使ってる言語も違うのね。
これでは意思疎通なんてしたくても出来ないだろう。

…わかってる。もちろん予想はしていた。
普通に考えて、共存もしたことが無い生き物同士の言葉が通じるはずなんてないんだもの。

だけど少しだけ残念に思うのは仕方の無いこと。

「ゾム」

落ち込む私を見兼ねたのか、彼が小さく何かを言った。

でも私には分からない。
やるせなさに思わずしゅんと肩を落として眉を下げると、彼は戸惑ったように私の頬に手を当て、小さな声で再び同じ単語を呟いた。

「ゾム」
『……？』

人差し指を己の顔に向ける。