【d!】さざ波が立つ【合作企画】 (ページ4)

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優しい人【sha】ページ4

波の音がする。

太陽が隠れ月が顔をのぞかせる真夜中。俺はいつものように静かな海へやって来ていた。大きな岩に腰をかけ、ぼんやりと光の無い水面を見つめる。何をするわけでもなく座り込む俺は、傍から見たら酷く奇妙な男に見えることだろう。

『今日も来てくれたんだね』

風が潮の香りを運んでくる。1匹の魚が砂浜に打ち上げられた時、不意に背後から声が聞こえた。
振り返ると、そこにいるのは白い肌に大きな瞳の美しい少女。
毎日のようにここにやってきて、密かに談笑してくれる優しい娘が、そこに立っていた。
俺の隣に腰かける彼女が、どこか嬉しそうに笑う。
ふわふわとした髪の毛が、風に煽られ揺らめいた。

「今日も来たで」
『ふふ、暇なの？』
「ちゃうわ」

毎日のようにここに座っている彼女は、何よりも儚く美しい。まるで少しでも触れてしまえばどこかに消えてしまいそうな彼女に、俺はそっと軽く言葉をかけた。

俺らは基本的にほとんど言葉を交わさない。
ただ一緒に並んで、ぼんやりと海を眺めるだけ。

示し合わせたように同じ時間に同じ場所に足を向け、この幸せな時間を噛み締めるだけなのだ。

『―――あなたは、いつまでこうしているつもりなの？』

いつだったか、1度だけ彼女にそう聞かれたことがあった。
なんの前ぶりもなく、唐突にまっすぐと俺に向けられた純粋な疑問。
いつまでなんて決めてないし、眺めたいと思った時に眺めているだけの俺は、その問の明確な答えを有してはいなかった。
何も答えない俺に、彼女は呆れたように瞳を閉じる。
そして、またいつものように口を閉ざしてしまったのだ。

何も言わずに。
その問いかけの理由も告げずに。
まるで、先程の疑問なんてありやしなかったかのように。

…彼女は、優しい少女だった。

太陽が登り始めると、俺らはやっとその場を離れる。
これもお互いに話し合って決めた訳では無い。ただ、そうした方がいいと思ったから。
太陽のものでお互いの姿は見ないのが俺らの暗黙のルール。
俺らは、お互いに暗い闇の中がお似合いなんだ。

己を憎み、誰かを想い、大切なものを失ったもの同士。
懺悔するかのようにこの場にやってきて、2人で静かに座り込んで、たくさんの罪を重ねていく。

………………彼女は、とても優しい少女だった。