【d!】さざ波が立つ【合作企画】 (ページ19)

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夏が君を連れ去った【syp】ページ19

一面には青。
一面というか、ある意味では四面と言ってしまっても過言ではないのかもしれない。空は高く澄んでいて、雲ひとつない。直接見ることは叶わない太陽がひどく眩しくて手をかざす。すると鼻の先から潮の匂いが掠めた。風が少しの塩を含んで私のワンピースを揺らす。

「馬子にも衣装っすね」

　太陽が煩わしいと言わんばかりにだらけきった歩き方をして、彼が皮肉を混えて笑う。女の子なら誰もが憧れるシチュエーションのくせにこの男といるとちっとも、ときめかない。

　せっかく可愛い格好をしてきたのに、台無しだ。

「ま、でもいいんじゃないっすか。見てるの俺だけですし」
「……似合ってる？」
「似合ってなかったら今頃腹抱えて笑ってますよ」

　素直になれない男の精一杯の褒め言葉。それだけで頰が緩む私は馬鹿だ。いつもの隊服を脱いだ彼は真っ白なシャツに黒のスラックスを着ていて、やっぱりどこかデートみたいな雰囲気にドキドキしてしてしまう。

　夏の暑さに少しだけのぼせた私は、彼に尋ねる。

「ショッピくん…何で私を誘ってくれたの」

　きっと彼に理由なんてない。そう思いながらどこか期待するのは馬鹿のすることなのだろうか。

「…理由、分からないんすか？」

　藤紫が影をつけて私を見る。

「わから、ないかな」
「はぁ…意外にAさんって言わせたがりっすよね」
「…素直に言ってくれないショッピくんの方が悪いじゃん」
「ふーん」

　素直じゃないのは私も同じだ。横目で彼を見やれば彼は目の前の海に視線を向けていた。ここは私を見る場面でしょ、と口を挟みたくなるのをなんとか堪えて彼の言葉を待つ。

「この海、あんたに一番に見せたかったって言ったら？」
「それって、期待していいってこと？」

　小さな私の呟きは、さざ波のようだった。
　私を見つめる彼の目は、猫のように細まって、

「えぇ。好きなように捉えてください」

　彼と過ごした一度目の夏は、潮風に乗って過ぎ去っていく。青と白と、そして藤紫がひどく印象的な夏だった。