夜凪は笑う【ht】 ページ16
しんどい、仕事辞めたい。
そんなことを考えながら、ひとらんらんは誰も待っていない部屋の扇風機を回し白米と生姜焼きを食べていた。一人暮らしの男の部屋に似合ったテレビに映るのは芸能人が田舎へ帰る番組だ。今日も終電ギリギリまで働き、荒んだ社畜魂にはその番組が非常に心に染みた。いや、最早懐かしさと切なさと、なんともいえない感傷がひとらんらんを襲って、飯を食べながら静かに涙を流してしまう。
関東の都会で働くひとらんらん。彼の実家もまた関東だが、祖父の家は違う。本州から離れた地方。
帰ることなんて、いつぶりだろうか。
小学生ぐらいか？とひとらんは首を傾げ、次の瞬間には会社にメールをし、飛行機と船を取る。
こうして、社畜ひとらんらんは真夏の夜に祖父の家に電撃里帰りを行うこととなった。
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...
天気は晴天。雲一つない青空からは、さんさんと日の光が降り注ぐ。今年の夏は涼しい日が続いているが、そうは言っても日差しはそれなりには強い。そんな強烈な日差しを受けて、ひとらんらんは目を細めた。
社会人として働き続けていれば、日が昇り上がる前に家を出て、日が沈んだ後に家に帰るのがルーティーン化してしまったから、こんなに眩い日差しを見るのは久しぶりだったのだ。船を降りたひとらんの迎えに来ていたのは随分と老けた祖父……ではなかった。
吹き抜ける潮風、その少し強めの風に、黒髪を躍らせながら、一人の女性が立っている。
「ひとらんくん？」
都会では珍しい染めていない黒髪を耳にかけて彼女が、自分に向けて声をかける。
「まさか、A？」
ずっと、忘れていた初恋が、小さく動き出した。
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作者名：海を楽しんで x他4人 | 作者ホームページ：https://twitter.com/Sea_see_San?s=09
作成日時：2020年7月18日 21時
