見えるから見ないだけ Ⅲ【呪術廻戦】 (ページ48)

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「Aはどれにする？」

『うーん、悟のオススメはあるかい？』

メニューを眺めて鞍久が聞く
はじめて来た店ならこれで普通の反応だろう
悟が嬉々として自分のおすすめを紹介している

「よし、今言ったの全部頼もっか。食べきれなかったら僕が食べるから」

『ああ』

一瞬悩んだが、悟の顔と漂う甘い香りに負けこくりとうなずく
そこからは凄かった
怒涛の勢いでことが進んだ

『お、美味しい、しかもかわいい……』

「でしょ」

ドヤ顔をかましたくなる気持ちが今なら分かる
これは良い

優しい甘さは鼻につかない、いくらでも食べられそうだ
幸せな顔でお菓子を食べる鞍久を、静かに見守る悟には結局誰も気づけなかった

『ありがとう』

「どういたしまして」

普段なら絶対に言わないであろう返事を返し、上機嫌に悟が微笑む
見ている人が自分しかいないことが残念なようなこれでよかったような不思議な気分

知り合いの言う【鼻につくイケメン】なんかではなく、ただただ綺麗だった

『……なんとなく芸術を理解した気がするよ』

後に野薔薇に悟の顔の話を振られ、鞍久は至って真面目にこう言った
その目はどこか遠くを見つめていた、と恵は語る

余談だが、悟に見せた鞍久の表情もまた悟しか知らないままである

【きっと一生知ることはない】