卑しき狗は笑わない 参

玖拾捌 体目（98体目） ページ23

「待ちなさい！！！」




「『？』」




後ろを振り向くとそこには、若い女性が立っていた。




「私がお相手します、中原中也さん、
主人殺しの猟犬さん！」



それが本名じゃないのだが、まぁいいか。



「私は愛橋春香(あいばしはるか)」



一礼する愛橋という女性
服から銃を取り出し安全装置を外した。




「ターゲットポイント」



そういい私と距離を詰め、目を合わせる。
私が宙返りをすると愛橋も後ろに下がった。




「一心同体」




何かの異能か？私の腕に金色の、少し宙に浮いたリングがはまっていた。

愛橋はそれも気にせず、そのまま自分の左足を撃った。



「フフッ」


そして、私の足に不自然な痛みが加わる。
見るとそこから血が出ている。
そしてその場所は愛橋が撃った部分と同じ、左足だった。



『な、なぜ……』



「何が起こってやがる！こいつに攻撃はされていないはず」




ふふふっとニヤッと笑う愛橋



「私の能力、【一心同体】は
相手の体と私の体をリンクさせる異能。
私が攻撃を受ければ、猟犬さんも攻撃を受ける」



リンク系の異能か！



「これで貴方たちは迂闊に私に攻撃できない」



銃を頭に突きつけ、笑う。
愛橋にも私にも冷や汗が流れる。



どうする。私の異能で能力を切るか？
いや、間に合わない。発動する前に撃たれる。
思ったとしても、愛橋に指をさした時点でバレる。




「それなら私にかけてほしかったな」



暗闇から私たちが聞き覚えのある、
呑気な声が聞こえてきた。




「誰！？」



愛橋がその声に銃を向ける。




「調子はどうだい？Aちゃん」




『太宰！？……それと中原もいるぞ』



「あ、ごめ〜ん。見えなかった。
小さくて」



中原は拳を握り、プルプルと怒りをこらえている。

カシャという音がしたと思うと、
太宰の額に銃口が当たる。



「撃ちたまえよ」



「！？」



「あとはそのトリガーを引くだけだ。
簡単だろう？さぁ、やりたまえ」




愛橋は震えながら、一歩下がる。
そして銃を撃つ。
しかしそれは当たらず、愛橋は銃を落とした。



「はぁ、やらないのかい？」



「ま、まだです！！」



愛橋はまだ諦めていないようで、
自分の首にナイフを突きつける。




「私が死ねば、猟犬さんも死にます！」




「あ、そうかい。じゃあ」




太宰が愛橋に触れると、私の手についていたリングが淡い光と共に消えた。



「異能無効化！？」



彼女の顔が青ざめた。

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