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「細かいことはよく分かんねえけど…なにごとも、全部ひとりの責任なわけねえよ。お前の責任もあると同時に"誰か"の責任もある。少なくとも…そうやって"独り"で抱える必要はどこにもない」
「…孤独になっているつもり、なかったんですけどね」
「…お前ほど周りの人間に恵まれていることを自覚しない奴、会ったことねえわ」
貶す様な物言いから零れる優しさ。程よい言葉の棘は、凝り固まった思念を解すかのよう。これまでにない経験ということは、幹部の皆には散々甘やかされてきたんだなと思え、苦笑してしまう。
「はは…ほんと、今来てくれたのがあろまさんで良かった……こんな"妄言"、他の人じゃ打ち明けられなかったですよ」
「……」
「…あろまさん?」
「……それさ、俺じゃ駄目なの?」
「…え?」
「俺が、お前の傍にいるのは駄目なのかってこと」
「それって、どういう…?」
いつになく覇気のない声音に気づき、その目を覗こうとした瞬間。椅子が動く音が聞こえると同時に視界がなにかの影に覆われる。続いて頬から顎に触れる少しかさついた感触と、唇の辺りを纏う少し熱い空気。瞬きひとつの間にまるでコマ送りのように流れる光景。
「──こうでもしないと、伝わんない?」
眼前で鳴る低く艶のある囁きの意味を理解するには、今の私にはあまりにも容量オーバーな代物であった。両の手で顔を挟み込むように固定されまともに身動きも出来ず、普段仮面の下に隠れている真っ直ぐな瞳が私を射抜いている。まさか、まさか…そんなこと、あってよいのだろうか?
「あろ、ま…」
「──ったく…だからお前は、いつまでもガキなんだよ」
不意に鋭さが解け柔らかな色へと変わる。これまで見たことのないほどに優しく微笑むさまに見惚れていると、いつの間にか額近くに移動していた手からデコピンが繰り出された。呆けた思考が一瞬にして覚醒する。
「いてッ」
「だーかーら、そんな他人のこと気にしてんじゃねえよ」
「い、いやでも」
「でもじゃねえつうの。ご自慢のポーカーフェイスはどこいったんだよ…お互い、腐っても十年以上活動してきたプロだろ?それともなんだ、恋愛には奥手で純潔無垢なキャラづくりでも始めたか??」
「……え」
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作者名:にゃむ吉 | 作成日時:2022年5月18日 11時