温もり ページ10
※R 18
.
甘い声が俺の耳を刺激する。
俺の指にお前の肌が吸い付く。もっとって、俺を求めてくる。
従えば、お前は喜ぶ。波に呑まれて、どこまでも堕ちていく。
そんなお前が、愛おしくて堪らない。
*+:｡.｡｡.｡:+**+:｡.｡｡.｡:+**+:｡.｡
「ん…」
どうやら、俺は夢を見ていたようだ。
隣の温もりを求めて抱き着こうとする。
しかし、その手は空を切った。
「…え？」
重かった瞼を持ち上げると、そこにアイツは居なかった。
まるで、最初から居なかったように。
シワひとつない、真っ白なシーツに布団。
撫でても、そこに俺の求めるそれはない。
起き上がってカーテンを開ける。
開いた窓から入る風が冷たくて、思わず身震いしてしまう。
部屋を見渡す。
やっぱり、アイツの影はない。
月を見上げる。
ねえ、俺は捨てられちゃったのかな？
こんなにもお前を愛しているのに。他の男の所に行こうって言うの？俺の愛は足りない？それとも飽きちゃった？
もっと早く、この気持ちを伝えていたら、お前は俺の隣に居てくれた？
躰を重ねるだけじゃない、心から愛し合える関係になれていた？
「……なあ、教えてくれよ…。」
空に零れたこの声は、どこに向かうのだろうか。
あれ以降、アイツが俺の前に現れることはなかった。
きっといつか帰って来る。そう信じて待っていたのに。
いつだったか、俺ら共通の友達に話を聞いたら、結構前に死んでいたらしい。
そんなの俺の耳には入っていなかった。どうしてって、疑問が湧くばかりだった。
俺のこと、信じてくれてなかったのかな。
やっぱり、もっと早く俺の気持ちを伝えるべきだったのかな。
今日は、あの日と同じように月が顔を出している。
そこにお前がいるのなら、毎日月を探そう。
この声が届くなら、毎日叫ぼう。
心の底からお前が大好きだ。愛してる。
戻って来て欲しいと思ってしまう、俺を許してくれないか。
傷ついた心を癒してくれる、生き甲斐はお前だった。
それは、今も変わらない。
千ノナイフガ胸ヲ刺ス 『温もり』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：名奈 | 作成日時：2021年5月15日 22時
