第25話 ページ27
稀咲が武道に銃を向け、発砲した時だった。
武道を包み込むように守ったのはAだった。
武道くんも兄さんも驚いた顔をしている。
倒れる私に唖然としながらも、先に動き出したのは兄さんで。
「行って、武道くん……!あの人を、逃しては、だめ……!」
その声とともに武道の背中を押した。
Aは地面に倒れ込みながらも呟いた。
「大丈夫、兄さんをひとりで行かせないから…兄さんのことは嫌いだけど、私たち、血を分けた兄妹でしょ…?だから一緒よ。」
あなたは人を殺したぶん、私は人を救えなかったぶん。
それぞれの罪を背負って、罪を償う。
***
「Aちゃん……」
「…?ヒナ、ちゃん…?兄さんは…?タケ、ミチくんは…?」
「俺ならここに居るよ……」
「稀咲君は…トラックに轢かれちゃったみたい。」
「そっか…罪を償った、んだ……ねぇ、ヒナ、ちゃん。」
「何?」
ああ、泣かないで。
好きな人の好きな人。
私の大好きなかけがえのない、お友達。
「ごめんね、酷いことして……武道くんを、取ろうとして…」
「え?」
「お友達守れなくて、ごめんね。いっぱいいっぱい、ごめんね。それと、大事なものがあるの。大人に…なった直人くんに
これを、お願い…ね。…タケ、ミチくん……」
「何?」
「君がいてくれて、私は幸せだったよ。ありがとう。ヒナちゃんとずっとずっと幸せにね。」
「!!」
俺のことを守ってくれた、助けてくれた、見ず知らずの女の子。
俺はこの優しい目を知ってる。
……凛?凜に、似てる。
俺はこの子の名前さえ知らない。
けど、まるでずっと前から知ってたみたいにこの子の存在が大きく感じられて……
「武道くん……Aちゃん、もう……」
「ヒナぁ……俺この子のこと全く知らないのに…何でか分かんねぇけどこの子の死がすげぇ重くて、涙が溢れ出てくるんだ……!!」
関東事変が起こった日。
Aは世界で一番大好きな人の腕の中で静かに息を引き取った。
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作者名:桜花 | 作成日時:2022年10月20日 21時