第16話 ページ18
震える手で、彼に電話をかけた。
すると彼はすぐに出てくれた。いつもなら切れるぎりぎりなのに。
『もしもし、Aちゃん?』
「武道くん、あのね、話したいことがあるの。今から会えない?」
***
「おまたせ、Aちゃん……」
武道くんが公園に入ってきた。
ここは、私が君に告白した、思い出の場所。
……来た。これを言うときが。
「急に呼び出してごめん。武道くん、別れようか。」
「…え?」
目の前の彼女は、何を言っているのだろうか。今までそんな素振り、全然見せなかったのに。
「あー…俺、もしかしてAちゃんに何かした…かな?」
「ううん、武道くんのせいじゃないよ。どうしても仕事で頭がいっぱいで、私が結婚とかこの先の未来が想像できないの。だから、ごめんね……。」
「そっか……そうだよな。」
本当はそんな顔をしてほしいんじゃない。
けど、これはもう決めたことだから。
「最後に一つだけお願いがあるの。目を閉じて。」
これが最初で最後のチャンスだよ、A。
Aは最後にキスをしてサヨナラしようとした。
何も起きなくて、武道が目を開きかけたとき、Aは武道の頬にキスをして。
「ごめんなさい……!さよなら……!」
「え、待って、Aちゃん……!」
武道はAに触れられた頬を撫でた。
また俺は知らない所で大事な人を傷付けたのか?
俺が情けなかったせいで、またひとり、俺から大事な人が去って行った。
橘の時と同じじゃないか。
過去の失敗から学べよ。
変わる努力しろよ。
いや、でも俺はもう分かってるんだ。
清正の件で心底嫌になって、橘を残して遠くへ行って、
勝手に逃げて、勝手に生きて。
俺は何やったって変われないんだって。
もう、自分ってヤツを嫌というほど憎んだよ。
きっと辛かったよな、ホントにごめんな、橘、Aちゃん……
俺は夜の肌寒い公園で、たったひとりで静かに泣いていた。
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作者名：桜花 | 作成日時：2022年10月20日 21時
