第十九話* ページ20
「あ、竜ちゃん!ちょっと待って!あそこ行く!」
「眼鏡屋?」
「うん!」
Aは迷うことなく一つの眼鏡の前に行った。
急にすっと眼鏡を取られ、ジッと見つめられる。
「な、何だよ。」
「眼鏡、そろそろ買い替え時かなって。この眼鏡、竜ちゃんに似合うと思って目付けてたんだ。うん、やっぱり似合ってる。サイズもぴったり。これ、買ってくるね。」
「あ、おい…」
Aはパタパタと走って会計に向かってしまった。
眼鏡なんて中学生が買うには高すぎんだろ…
「A、金返すわ。」
「いーの!どうしても竜ちゃんにプレゼントしたくってお小遣い頑張って貯めたんだ。だから遠慮せず受け取ってよ。」
「A…」
「さ、竜ちゃんの服見に行こ!また背も伸びてカッコよくなったから、似合う服がいっぱいあるわ!」
竜ちゃんの好きな服屋ってあそこよね？って聞いてくるA。前にいるAを、どうしようもなく愛しく思った。
A、お前眼鏡大っ嫌いだったよな。
昔、幼稚園でAは可愛い顔立ちから男にたいそうモテた。毎日のように男に囲まれ、Aだけが特別扱いを受けていた。
幼稚園の遊び時間、Aは花を渡され、男たちにリアカーに乗せられていた。それくらい、Aは人気者だった。
Aは視力が弱く、矯正の為に眼鏡をつけることになった。幼稚園から眼鏡をする奴は殆どいない。眼鏡をかけると顔の印象は大きく変わる。そのせいで、Aの周りにいた男はいなくなってしまった。
いつも中心にいたのに、急に一人ぼっちにされて悲しそうだった。Aは賢いから、眼鏡をつけた自分は好きじゃないんだろうと気づいたのだろう。
ある日、凄い泣いて帰ってきた事があった。
「Aもう眼鏡なんてかけたくない!」
Aの初恋の相手であり両想いであった男の子に振られたらしい。眼鏡をかけるようになってから距離が遠くなっていた奴。
Aちゃんよりミズナちゃんの方がいい、なんてストレートに言われたって。
んだよソレ。Aは眼鏡しててもしてなくても可愛いじゃねぇか。傷付いたに決まってる。
バレンタインにチョコのやり取りだってして、お前と同じ名前のハル君の人形大事にして。どれだけ愛されてたか知らねぇ癖に。
だから俺は、もう少し後につける予定だったのを繰り上げて、Aと同じように眼鏡をかけた。
俺と一緒だな、なんて言えば嬉しそうに笑ってくれた。
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作者名：桜花 | 作成日時：2022年9月4日 18時
