新たな金の使いみち。【九井一】

第18話 ページ19

9月2日 はれのちくもり
今日はココ君に会えなかった。ようじがあったみたい。
ざんねん…

9月3日 くもり
今日もお勉強…？ココ君には会えなかったよ。でもね、こんどヴァイオリンきかせられるように、私もレッスンがんばらなくちゃ！がんばる！

どこをめくっても、その日記には俺のことを書いていた。

9月10日 くもり
今日も会えなかった…ガマンはとくいだけど、いつまでガマンできるんだろ…私のこと、嫌いになっちゃったのかなぁ…？でも、あんまりワガママいっちゃだめだよね…

9月11日 くもり
おばあちゃんがアップルパイをやいてくれた。元気がないよ、大丈夫？って言われちゃった。おばあちゃんを心配させちゃった…大丈夫！って笑ったけど、おばあちゃんにすなおに話せばよかったかも…

9月12日 大雨
どうやったらココ君に会えるの…？わたし、ココ君に会いたい…会いたいよ…そうだ、足長おじさんに手紙を書いてみよう…！あっ、わたし、あの人の名前もじゅうしょもしらないや…

9月13日 くもり
やっぱりさみしいよ。ココ君に会えないなんて。発表会もないから、足長おじさんの手紙も来ない。ココ君は、何でも話せる、たった一人のお友だちなのに…どんな理由でもいいから、ちょっとでもいいからココ君にあいたい…神さま、お願い…

9月14日 はれ
ココ君にやっと会えたよ…！知らない男の人につれていかれそうになってこわかった…！ジョンやココ君がいなかったらどうなっていたんだろう…
ココ君がね、助けにきてくれたんだよ。王子様みたいで、すっごくかっこよかった。

ありがとう。

神さま、一生のおねがい。
これからも、ココ君と一緒に遊べますように。


****
「…」

俺が好き勝手していた間、彼女はこのひっそりとした場所で、静かに俺を待っていた。俺が彼女を危険に晒したのに…

怖いという気持ちよりも、俺との再会が嬉しいと、彼女は言う。

何だよ、一生のお願いって。俺に使う価値なんてねぇだろ。
それが一生のお願いって、ささやかすぎる。

ごめんな、Aちゃん、赤音さん。
一瞬だけ、触れるのはこれで終わりにするから、今だけ許してくれ。

俺は眠るAちゃんの髪を優しくかきあげ、額に残る彼女の火傷にキスを落とした。

「…いっぱいいっぱい…ごめん…」

第19話→←第17話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す