第四訓 ページ5
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沖田の雑な説明を受けながら屯所の長い廊下を進んでいけば、池のある中庭に出る。
「まあざっとこんなもんでィ、なんか質問あるか」
「沖田さん、アレは一体……」
そう言って指さしたのはラケットをひたすら振り続ける一人の隊士。
「それは心の綺麗な奴にしか見えない妖精でさァ」
「見れてよかったな」と指差す方には目もくれずに歩き出す沖田さん。
するとどこからともなく投げつけられたアンパンによって彼は一瞬でアンコまみれになった。
「もしかして新人さん?
俺は山崎退、嫌いな食べ物はアンパンです」
「あ、私は「A Aちゃんだよね?」
自分の名前を言い当てられ驚いていると地味な彼は胸を張ってこう言った。
「なんてったって監察だからね!」
そんな山崎さんに気を取られていると、沖田さんの姿がない事に気がつく。
キョロキョロと辺りを見回す私に「サボりだよ」と教えてくれた彼は「いつものことだから」と言って当たり前のように笑う。
「折角だしミントンでもやろうよ」
「いやでも私……」
「ささ、はやくはやく!」
乗り気じゃない私に半ば強引にラケットを握らせた山崎さんは、数メートル離れると「行くよ〜」と手を振った。
「おい」
かけられた声にふと顔を向ければそこには仁王立ちの土方さんがいて……
目が合うと全身から血の気が引いていくのがわかった。
「入隊初日っから仕事サボってミントンたァいい度胸してんじゃねぇか」
「これは……」
山崎さんに助けを求めようとするが彼の姿は忽然と消えていて、私の手に握られたラケットだけがしっかりと残っている。
「覚悟はいいか?」
ちゃきッ.......
「士道不覚悟で切腹だアアアアアアアアアアアア!!!」
「ひいいいいいいいいい」
振り下ろされた土方さんの刀をスルリとかわして一目散に走り出す。
「待てこらあああああああああああああああああああ!!!」
覚えとけよ山崎イイイイイッ!!!
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作者名:百瀬 | 作成日時:2020年7月11日 0時