第二十六訓 ページ27
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ガキッ!!
刃と刃がぶつかる音。
Aの目前には沖田の背中。
男の短刀は沖田の刀によって弾き飛ぶ。
「くそっ!」
そして男は追討ちをかける隙もないほどの速さで逃走。
眉間にしわをよせ、血が出る程強く唇を噛み締めるA。
「そんなに憎い相手を殺すのに何を迷う必要があったんでィ」
「それは……」
「まさか怖くなったとか言うんじゃねーだろうな」
「それは違います!……私はただ妻子のことを思って」
そう言いかけて、言いにくそうに目を伏せた。
「そんな事言ってんなら刀なんか捨てちまいな、てめーは武士には向いてねぇ」
そう言い放つ沖田の眼差しは限りなく冷たく、Aは去っていく沖田の後ろ姿をただ見つめることしかできなかった。
「何があっても迷いなく人を斬るのが武士だっていうんですか.......」
ポツリと呟いたAの言葉に答えが返ってくるはずもなく。
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ばくんっ
ばくん
……なんの音?
ばくん
ばくんっ
ばくん
心臓の音だ
胸が苦しい
目前に広がるのはいつかの光景
『生きろA』
赤黒い水たまりに倒れているのは
「父さん ───っ!」
そう叫んだ自分の声で私は目が覚めた。
体中に汗をかき、鼓動は早い。
「……夢か」
そう呟いて大きく息をはいた。
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「Aちゃんそこ鼻の穴なんだけどオオオオオオ!!?」
「重症だな、こりゃ」
そんなまわりの声は一切Aには届いておらず、朝食を鼻から食べようとする彼女の奇行にその場の誰もが衝撃を受ける。
「Aちゃんどうしちゃったんですかね、絶対変ですよ」
「こいつが変なのは元からでさァ」
食べ物をボロボロとこぼし、ほとんどがまともに口に入っていない。
「ごちそうさまでした」
両手を顔の前で合わせごちそうさまの合掌をするが、彼女の食器の中の食べ物はあまり減っていないように見える。
お盆を片付け、ヨロヨロと力ない足取りで食堂を後にする。
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作者名:百瀬 | 作成日時:2020年7月11日 0時