十二左 ページ12
ひゅうひゅうと強風が吹き荒れ、其れに揺さぶられて木々の葉と葉が擦れ合ってやけに不気味な音を鳴り響かせている。不味い、そう思って私は和室を飛び出して庭に転がり込もうとしていると──黒雲が月を隠し、一層付近は暗がりに包まれた。慌てて飛び降りようと決意した足を引っ込め、縁側に引き返せば、しゅ、しゅっと遠方から音がする。
冷や汗が額に滲み、音のする方を反射的に見詰めた。……紺青の髪をはらはらと揺らしながら、江雪左文字は長い太刀の刃を私の方に向けている。見据える表情は慈悲の欠片も無く、無情を浮かべていた。暗がりの中の筈が、揺れる束に収まり切らなかった幾本の髪、江雪の表情がやけに明瞭に窺える。不気味な様に身体を捻り、どたどたと床板を踏み付けながら逃げ出した。しゅ、しゅっと云う音だけは耳に残り、現在進行形で背後から迫られているような気さえする。然し、江雪は私を追う事はしなかった。
「……にしても私、何時の間に寝ちゃってたんだろ……」
頭を抱え、はぁと大きく息を吐く。
道場らしき室内の隅に座り込み、私は高鳴り出す拍動に息を荒げがちになって、両手で口元を必死に押さえ付けながら閉め切った屏障具を時折照らす雷を見上げた。爆音を響かせ、私を責めるように恐怖を与え続ける。気味の悪さに早く覚めてしまいたいと思っていれば、不意に首元が痛み、粗雑な手付きで触れてやれば雷は再度鳴る。掌に絡み付く赤を鮮明に見せ付けるように、雷光は室内を照らした。ブツン、とテレビの電源が落とされてしまったように一瞬、意識が朦朧として半身がふらつく。
*
──其れから暫く経つのだが、一向に夢から覚める気配は無い。態々秒数なりを数える事はしなかったのだが、体感時間としては既に数十分は経過しているように思える。不審に思っていれば、しゅ、しゅっと又あの音がした。慌てて屏障具を震える手で押さえたと同時に、がたがたと其れを揺らす長身の影が映る。
掠れた悲鳴だけが溢れる口は、歯がかちかちと鳴るのをよく響かせていた。消えろ消えろ消えろ、と叫んでいたのかは鼓膜を揺らす感覚さえ把握出来ずにいたので知る術も無いのだが、力んでいた肩が緩む頃に影は私の前から消えていた。
ほっと安堵するのも束の間、背後からはしゅ、しゅっと擦る音と金属音と人の気配があったのである。
「何故、私は最初から思い付かなかったのでしょう」
首を這う長髪、背後から追い詰めるように抱擁する二本の腕。
私は絶叫した。
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コウ(プロフ) - 卯月さん» コメントありがとうございます！何度か読み返して、描写が上手く伝わっていないのではと不安に思っていたので、その言葉を見て安心しました。次作も頑張って更新進めたいと思います！ (2017年10月1日 23時) (
レス) id: bfc9344f18 (このIDを非表示/違反報告)
卯月(プロフ) - 面白かったです！描写が丁寧で、凄いなーとか思いながら読んでました！次作も頑張ってください！！ (2017年10月1日 23時) (レス) id: 58c246c3a9 (このIDを非表示/違反報告)
不知火 - はいっ!大丈夫です！更新頑張って下さい！ (2017年6月28日 22時) (携帯から) (レス) id: 0a98efea53 (このIDを非表示/違反報告)
コウ(プロフ) - 天宮さん» 前作からコメントありがとうございます！更新なるべく早く出来るように頑張ります！ (2017年6月25日 23時) (レス) id: 2e6af04341 (このIDを非表示/違反報告)
天宮 - うおおおおおお！新連載ですね！いつも楽しんで読ませて頂いてます。更新頑張って下さい！ (2017年6月25日 23時) (レス) id: 571fb048dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：コウ | 作成日時：2017年6月16日 0時
