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ピッ、ガシャン。
私がトイレから出てきたタイミングで、ちょうどそんな音がした。
どうやら誰かが自販機を使っているらしい。
知ってる人かな、そんな軽い気持ちで自販機に目をやって、……思わず息を呑む。
「……あれ、A」
──よく知った声。よく知った瞳。
自販機より少し高いその背も、スっと通った鼻筋も、……よく見慣れたものなはずなのに。
「……あー、ごめん、分かりにくかったな。黒尾デス」
ピタリと固まった私を見て、困ったような笑みを浮かべるその人──……黒尾さん。
いつもはツンツン逆立っている彼の髪が、今はぺたりと落ち着いていて、……そのかっこよさに、心臓が止まった。
「っぇ、あ、えっと」
普段の黒尾さんの髪は、一体どうなっているのかと不思議に思ってしまうくらいに逆立っている。
──なのに今目の前にいる彼からは、そんな不思議な髪型の面影が少しも感じられなかった。
思っていたよりも長い前髪。
まっすぐ下りた黒髪の隙間から覗く瞳に、ドキドキと心臓が苦しくなって。
「毎回誰かわかんねえって言われるんだよな。髪型で人を判別すんなって話だけども」
ギャップ萌え、なんて言葉が頭をグルグル回って、私は慌てて彼から目を逸らした。
……だって、あまりにもかっこいい。
「お、お風呂上がりですか?」
「うん。Aちゃんも?」
「……はい」
しっかり温まってきたのか、ほんのり上気して赤みを帯びた頬。
練習試合のオンパレードで疲れているのだろう、いつもより眠たげなトロンとした瞳。
……あれだ、色気ってやつだ。
普段から大人っぽい雰囲気を纏う人だけど、今はさらにそこに色っぽさみたいなのが……って何考えてるの私。
ドキドキ、少しも収まらない動悸を落ち着かせるようと、小さく深呼吸をする。
黒尾さんが、小さく笑った気配がした。
「もしかしてAちゃん、ドキドキしてます?」
「っ!」
揶揄うようなその声に、私は思わずがばりと顔を上げる。
ニヤニヤ、悪戯っぽい笑みを浮かべる黒尾さんと視線が合って、……ぶわりと頬が熱くなった。
「ぶは、真っ赤。髪下ろしてる俺かっこいい?」
くつくつ笑い声をあげながら、あざとく首を傾げてくる黒尾さん。
──余裕たっぷりに私を揶揄ってくる黒尾さんを、少しくらい動揺させたくて。
私は震える声で、小さく呟いた。
「……髪下ろしてても、下ろしてなくても、黒尾さんはいつもかっこいいです」
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暁☆(プロフ) - 黒尾ファンさん» ありがとうございます、頑張ります🙇♀️ (4月15日 8時) (レス) id: f3c28010ce (このIDを非表示/違反報告)
黒尾ファン - お手伝いは、聞いてない〜⁉ヤバこれは、現実でもキュンってするところ。うわぁもうヤバいしか言えないこれからも頑張ってください (4月13日 7時) (レス) @page25 id: 13c9948002 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - yuuuさん» コメントありがとうございます!とっても嬉しいです🥰 (4月11日 23時) (レス) id: f35ddf974d (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 黒尾ファンさん» 嬉しいコメントありがとうございます!頑張りますね💪 (4月11日 23時) (レス) id: f35ddf974d (このIDを非表示/違反報告)
yuuu(プロフ) - ドキドキ、きゅんきゅんでした💖だいすきです♡ (4月11日 19時) (レス) @page24 id: 6410d877bf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:暁☆ | 作成日時:2024年3月20日 1時