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──2駅という距離はあっという間で、匂いの話をしていただけで、すぐに私の降りる駅に到着してしまう。
もちろん黒尾さんとの話は何でも楽しいけれど、……なんかもっと、違う話で盛り上がれば良かった。
好きな香り、好きな色、好きな食べ物は知っていても、嫌いな食べ物を聞いたことはない。
日本史を取ってることは知っているけれど、何の教科が好きなんだろう。苦手な教科はあるのかな。
もっともっと、彼のことを教えてほしい。
帰り道の数十分じゃ、少しも話し足りないよ。
「……じゃあ、また明日です」
電車の速度がゆっくり落ちていくのを感じながら、私はそっと笑顔を浮かべる。
──本当はまだ、黒尾さんと話していたい。
だけどそんなこと、伝えられるわけがない。
私は、黒尾さんの彼女じゃないから。
ただの後輩、ただのマネージャーだから。
明日も当然朝練はあるけれど、こうやって2人きりで話せる時間はきっとないだろう。
放課後の部活の間も、基本的に私が黒尾さんと交わすのはバレーの話だけ。しかも主に業務連絡。
今日は夜久さんが気を利かせて2人きりで帰らせてくれたけど、……明日もそうだとは、限らない。
──次2人でゆっくり雑談できるのは、いつだろう。
「……あのさ」
そんなことを考えながら体を反転させたところで、黒尾さんが小さく呟いた。
首だけで振り返ると、まっすぐ真剣なヘーゼルの瞳と視線が絡む。
「今日、夜、時間ある?」
その彼の言葉に私が瞬いた瞬間、完全に停車した電車の扉が開いた。
数本路線が交差する、それなりの大きさの駅だ。
扉の前に立っていた私たちは、後ろの人に押されるようにして電車から降りる。
「え、えっと」
夜?時間あるって、どういうこと?
黒尾さんの質問の意図が読めなくてグルグルしていると、彼はちょっぴり照れくさそうに口角を上げた。
「シーブリーズ、匂い確認しとくから。帰ったら、……電話かけてもいい?」
でんわ。……電話。
彼のくれた言葉を飲み込んで、咀嚼して、……ようやく意味を理解する。
ドキリ、大きく胸が鳴った。
「っ、もちろんです!時間いっぱいあります!」
私の返事を聞いて、黒尾さんは嬉しそうに目を細める。
じゃあまた、と手を振って電車の中に戻っていくから、私もそんな彼に小さく手を振り返した。
──ドクドク、心臓がうるさく鳴り響く。
自分の顔が赤いことなんて、鏡を見なくてもわかってしまった。
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暁☆(プロフ) - 黒尾ファンさん» ありがとうございます、頑張ります🙇♀️ (4月15日 8時) (レス) id: f3c28010ce (このIDを非表示/違反報告)
黒尾ファン - お手伝いは、聞いてない〜⁉ヤバこれは、現実でもキュンってするところ。うわぁもうヤバいしか言えないこれからも頑張ってください (4月13日 7時) (レス) @page25 id: 13c9948002 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - yuuuさん» コメントありがとうございます!とっても嬉しいです🥰 (4月11日 23時) (レス) id: f35ddf974d (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 黒尾ファンさん» 嬉しいコメントありがとうございます!頑張りますね💪 (4月11日 23時) (レス) id: f35ddf974d (このIDを非表示/違反報告)
yuuu(プロフ) - ドキドキ、きゅんきゅんでした💖だいすきです♡ (4月11日 19時) (レス) @page24 id: 6410d877bf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:暁☆ | 作成日時:2024年3月20日 1時