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──お話上手な黒尾さんとの会話は途切れることもなく、彼との帰り道はいつだってあっという間だ。
もちろん他の部員と帰るのも楽しいけれど、……やっぱり黒尾さんと2人きり、というのは特別だから。
「……あー、やっぱ混んでるな」
「ほんとだ。この時間ですもんね」
時刻表から2分遅れてホームに滑り込んできた電車を見て、黒尾さんが苦い声をあげた。
部活後の、夕方から夜にかけたこの時間の電車は、だいたいいつも混んでいる。
昨日はもう少し遅い時間帯だったからまだ空いていたけれど、今日はかなりぎゅうぎゅうだ。
開いた扉から覗いてもやっぱり中はぎゅうぎゅうで、入るのに若干尻込み。
ごめんなさいと心の中で全力で謝りながら、私はそっと電車内に足を踏み入れた。
当然すぐ後ろから黒尾さんも乗り込んできて、混み合った車内で体が触れ合う。
──どくり、思わず体が強ばった。
「Aすぐ降りるだろ、こっち来な」
いつもより幾らかボリュームを落とした声で言いながら、黒尾さんが私と位置を代わってくれる。
──こうやってスマートに優しくしてくれるから、どんどんどんどん好きになってしまうのだ。
……彼にはきっと、他意なんてないだろうに。
黒尾さんにとってはたぶん、こういう風に相手を気遣うことは当たり前なんだと思う。
私相手じゃなくて、……たとえばリエーフくんが相手だったとしても、黒尾さんは先に降りる人をドアの前に立たせてくれるはずだ。
「……ありがとうございます」
そんな彼の優しさに惹かれる反面、……ズルい私は、こんな最低なことも思ってしまう。
──私だけだったら良いのに、なんて。
「……にしてもほんと混んでるな。身動き取れねえ」
「ですね。私は2駅で降りれるから、黒尾さん頑張ってください」
「くそ、乗り換え羨ましい」
ひそひそ、小声で囁くようにしながら会話をする私たち。
少し動けば黒尾さんのシャツに触れてしまいそうで、私はひたすら無心でスクールバッグを握りしめた。
近すぎるこの距離に、……心臓の音が鳴り止まない。
──と、その瞬間。
「……っぉわ、」
ガタンと一瞬大きく車内が揺れて、黒尾さんが小さく声をあげる。
後ろから押されてバランスを崩した彼が、そのまま私の背後の扉に右手を伸ばした。
ドン、短く音が鳴る。
──本当に至近距離、睫毛が当たってしまいそうなその距離で、黒尾さんの赤いネクタイがゆらりと揺れた。
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暁☆(プロフ) - 黒尾ファンさん» ありがとうございます、頑張ります🙇♀️ (4月15日 8時) (レス) id: f3c28010ce (このIDを非表示/違反報告)
黒尾ファン - お手伝いは、聞いてない〜⁉ヤバこれは、現実でもキュンってするところ。うわぁもうヤバいしか言えないこれからも頑張ってください (4月13日 7時) (レス) @page25 id: 13c9948002 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - yuuuさん» コメントありがとうございます!とっても嬉しいです🥰 (4月11日 23時) (レス) id: f35ddf974d (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 黒尾ファンさん» 嬉しいコメントありがとうございます!頑張りますね💪 (4月11日 23時) (レス) id: f35ddf974d (このIDを非表示/違反報告)
yuuu(プロフ) - ドキドキ、きゅんきゅんでした💖だいすきです♡ (4月11日 19時) (レス) @page24 id: 6410d877bf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:暁☆ | 作成日時:2024年3月20日 1時