61話 ページ16
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「こないださ、オレが山で人助けしたって話覚えてる?」
こてんと首を傾げる真波くんに、私は記憶の糸を辿る。
そういえば新開さんたちとお昼ご飯を食べた日、そんな話を聞いたっけ。
「うん。覚えてるよ。ボトルあげてきたって言ってたよね」
「そうそう。その子、総北だったみたいで」
──この流れでそんな話をするということは、つまりその子が東堂さんの言っていたクライマー?
…確か山で行き倒れてたって言ってなかったっけ。
そういうちょっと抜けてる子を東堂さんが気にするなんて、なんというか意外だ。
「今度のインハイで、ボトル返してもらう約束したんだ」
不意にそう言った真波くんが、私に目を向けた。
真波くんの瞳には強い意志がこもっていて、目が合ったその瞬間に惹き込まれる。
「オレ、勝つよ。今度のトーナメント戦、黒田さんにも勝ってインハイに行く」
まっすぐな瞳、声。
──本気だって、わかった。
例え箱学チャリ部の歴史上、1度も1年生レギュラーがいなかったとしても。
1年生の真波くんが2年生の黒田さんに勝てるなんて、きっと誰も思わないだろうけれど。
「…応援、するね」
私は真波くんの、あの走りを見たから。こうやって本気の瞳をする、真波くんを知ったから。
にっこりと笑ってみせると、真波くんもふわりと嬉しそうに笑った。
「あーあー遅刻だー。委員長怒ってるかなー」
「そうだった遅刻だ……って、何か振動音聞こえない?真波くんの携帯?」
2人してため息をついたその瞬間、何かがブーブーと振動している音が聞こえてくる。
私の携帯じゃないから真波くんかと聞いてみると、案の定彼の携帯が震えていた。
真波くんが、はーいと気の抜けた声で電話に出る。
「東堂さん?どうしたの?……あー、はい。楽しかったですよ。……あはは、はい。面白い登りをする奴、いました」
東堂さんか。偵察の収穫の確認かな。
楽しげに東堂さんと電話する真波くんを見て、本当に少しだけ、私も新開さんと電話してみたいと思ってしまった。
「眼鏡が似合ってて……え?いや、短髪でしたよ?あとは……あぁ、登るときの楽しそうな笑顔も素敵でした」
笑顔でやり取りをしていた真波くんの表情が段々訝しげなものに変わっていく。
私がキョトンと見ていると、真波くんもキョトンとした顔で首を傾げた。
「…東堂さん、誰の話してるの?」
──もしかして東堂さんと真波くんの言う面白いクライマーは、別の人?
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poyocoooooo(プロフ) - 弱ペダの作品あまり見かけない中でこんなに素敵な作品に出逢えてとても幸せです♡荒北さん推しだった私ですが、この作品を通して見事に新開さん推しになりました😍個人的に総北で手嶋さんと絡めたのが嬉しかったです✨手嶋くんいいですよね…! (4月26日 4時) (レス) @page28 id: 7859abe11c (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 名無し20182号さん» コメントありがとうございます!!嬉しいです🥰 更新頑張りますね! (8月23日 0時) (レス) id: f3c28010ce (このIDを非表示/違反報告)
名無し20182号(プロフ) - 神作すぎて一気見しちゃいました💞めちゃめちゃきゅんきゅんします!!更新応援してます❕ (8月17日 21時) (レス) id: f1e05d66bf (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - ちるちるさん» コメントありがとうございます!! 嬉しいです、頑張ります😭 (5月31日 14時) (レス) id: f3c28010ce (このIDを非表示/違反報告)
ちるちる(プロフ) - めっちゃ面白かったです!!ドキドキしました…!続きが楽しみです!更新頑張ってください!! (5月31日 3時) (レス) @page27 id: ace1fac0f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:暁☆ | 作成日時:2020年12月14日 21時