34話 ページ37
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「──…っあー…Aちゃんってほんっと優しいよなあ…」
困ったように笑う新開さん。
どこか安心したように見えるその笑顔に、何だか私まで安心してしまった。
「優しいのは新開さんですっ」
「はは。俺が優しくないの、さっきの話でもわかったろ?」
「え?」
思わず声をあげる。
優しくないの…?どこにそんな要素、あったんですか?
「…?新開さんは優しいですけど…」
「……うさぎ轢いて見向きもしないような人間だぜ?」
自嘲気味に笑った新開さんに、ああ、と納得。
それなら新開さんは優しいよ。
「ううん。もう新開さんは拾ったから大丈夫です。今度そんなことが起こったら、新開さんは自転車を止める」
もう二度と彼は、大事なものを捨てたりしないだろう。
立ち止まることの出来る優しさを、新開さんは思い出したから。
「間違っていても気付かない人だってたくさんいるし、もしかしたらそういう人の方が多いかもしれない。でも新開さんは間違いに気付けて、ちゃんと向き合った。そんなの優しい人にしか出来ないです」
私の言葉じゃ響かないかもしれないけれど、どうしても伝えたい言葉を紡ぐ。
新開さんはふい、と顔を背けて、それから小さく囁いた。
「…ありがとな」
新開さんが、ペダルを緩める。
並んで走ろうか、と笑った彼に、私は大きく頷いた。
新開さんの隣を、速度を落として走る。
「…どうして今日、言おうと思ったんですか?」
それからぶっちゃけた質問をすれば、彼はクスクスと優しい声をあげて笑った。
大胆だなAちゃん、とからかわれる。
「──今年のインハイ、俺は4番ゼッケンをつけて走る。全力でペダル踏んでもいいか、確認したかったんだ」
まだインハイメンバーを決めるトーナメント戦は始まってもいないというのに、新開さんの声は自信に溢れていた。
誰にも譲らない、そんな声。
「いいに決まってるじゃないですか。私、新開さんが走ってるところ見るの好きですよ」
ちょっと大胆すぎたかもしれない、と彼を見れば、新開さんは照れくさそうに微笑んでいた。
「……それからな、俺、あの日以来左側抜けなくなっちまったんだよ。それでもインハイ行けると思うか?」
そしてそれから、とんでもない情報が投下される。
──左側が抜けない、なんてそんなの。
「右側抜けばいいんですよ!」
すると新開さんは、何がおかしいのか思いっきり声をあげて笑い出した。
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暁☆(プロフ) - 断然ポカリ派民さん» コメントありがとうございます!嬉しいです(*^^*) (2020年9月23日 17時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
断然ポカリ派民 - ヤバい葵ちゃんタイプ (2020年9月10日 21時) (レス) id: 60ae0496f5 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 断然ポカリ派民さん» すみません、ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです (2020年8月29日 5時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
断然ポカリ派民 - まだかな♪まだかな♪ (2020年8月28日 21時) (レス) id: 60ae0496f5 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 断然ポカリ派民さん» ありがとうございます(´˘`*)更新早く出来るように頑張りますね! (2020年8月16日 5時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:暁☆ | 作成日時:2020年5月1日 0時