#28 顕嵐side -1year past- ページ28
＊
「こら、ながつ。
いつまで落ち込んでんだお前、
ほら見ろ写真の顔どれもひっどいぞ」
「...俺のせいで負けたもん...」
「だからお前のせいじゃないの。
他のとこで全然決め切れなかった俺も悪いし、
俺らみんなの責任だって」
「でも...あれん...」
「とりあえず、会ってこいよ。
...お前のこと、1番応援してたやつが待ってるけど」
「...会えない、「誕生日ください」とか
調子乗って勝てなかったんだよ俺...」
「じゃあお前、お礼も言わねえの？
じんの誘い断って、おっきい声で応援してくれて、
負けてもお前のこと待っててくれる奴に？」
「...」
「ほら、行ってこいよ。
お礼ちゃんと言って、
「勝てなくてごめん」ってちゃんと言ってこい。
それが、お前の責任」
まるで人生が終わったみたいな顔して俯くながつを
立たせて、Aの方へ送り出す。
勝った負けたも大事だけど、
それ以上に大事なことってあるんだよ、ながつ。
引退式の最中も、写真撮影の時も、
あいつは「俺のせいで負けた」って珍しく本当に
暗い顔をしてたけど。
きっと、それ以上に、
今のながつの顔はひどいはずだ。
1番かっこいいところを見せたかった女の前に、
1番立ちたくない状況で立ってんだから。
最後のは、正直決めるのに無理があった。
距離も遠くて、時間もぎりぎりで。
あれでブザービートが決まってたらそりゃ
あのドラマみたいだったかもしれないけど、
現実はそんなに甘くない。
だから本当にながつのせいじゃないんだ。
みんなの力が、足りなかっただけ。
『...怜央、お疲れ様』
聞いたことないほど優しい声をかけるAは、
それをちゃんと分かってる。
試合で負けたくらいで、
Aは人を見損なうような奴じゃない。
だから、安心して弱いところを見せてもいいのに。
どうしてだって好きな女の前だと、
男は誰でも意地を張りたくなるけど。
でも、今日だけは、素直になれよ？
応援してくれてありがとう、って。
負けちゃってごめん、って。
...明日は応援してもらえないけど、
メダルもかけてあげられないけど、
それでも一緒にいたい、って。
頑張ったお前には、伝える権利があるよ。
胸張って、言っていいんだから。
お前にしか、できないんだから。
...俺の好きな女、ちゃんとしあわせにしてよ？
＊
#29 -1year past-→←#27 怜央side -1year past-
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 132人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：りり | 作成日時：2017年6月7日 21時
