煉獄家の女中が鬼殺隊に入らない理由【煉獄杏寿郎】

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-杏寿郎side-



父上や弟から何かと注意されることが多いが、

俺からAのことを想う気持ちは

至って単純なものだった。





まず第一に、Aは美しい。綺麗だ。


初めて見た時から、左右で異なるあの瞳の色が

まるで西洋のガラス細工のようで好きだった。



漆黒のあの細き髪のしなやかさと鮮やかさは

遠い記憶に眠る、母を思い出させる。




頭の先から指先まで雪のように白い肌は、

今にも透けてしまいそうでどこか儚い。




公言こそしていないが、

彼女がそばを駆け回るたび

桜の花が舞うのと同じ香りがするので、


俺はそれをひどく気にいっている。




最近は鬼殺隊の任務に同行することも増えたが、

日に日に彼女の技には磨きがかかっている。



彼女独自の武器を使って

夜風の中をしなやかに舞う姿は

歌舞伎を思い出させるほどの

華やかさであった。



事細かに思い浮かべようとすれば

きっと数多にあるが、



単純には、

俺は彼女を見ることが好きだということだ。




彼女の風貌、些細な仕草、

匂い、表情は

誰にも真似できない。




唯一無二のその繊細さを

俺はいつだってこの眼で焼き付けたいと、

そう強く願っている。







二つ目に、「守りたい」

という当たり障りのない感情である。



しかしその感情はどうしようもなく年々強くなる。



理由は比較的簡単だった。



男としての保護本能の発達、

加えて柱としての責任感が相まって

それを駆り立てているように思う。




それ以上でもそれ以下でもない。






ただ、彼女のことは絶対に傷つけたくないし、

彼女を傷つける者は正直許せない

というのが本音だった。





従って、鬼殺隊任務で彼女に背を任せる際は

彼女の力を信頼したいという気持ちと

彼女への保護本能が俺を掻き乱すので


毎回倒れそうになる。





もう彼女は昔のように弱くないし、

不器用でもない。




そんなことはよくわかっているつもりだ。



しかし、俺の中に

幼少期の頃の彼女との思い出が

常に渦巻いていることは

どうしても否めないのだった。






　

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