要請 ページ5
元より私は、この鶴丸国永の主になろうというつもりは無かった。
いや、形式的には審神者と刀剣男士であるから主従の関係ではあるけれど、あくまでそれは形式上だ。
いつかは彼の主になれたら、とは思うけれど、私を主と見なすかを決めるのは私じゃない、鶴丸だ。
だって、私は引き継ぎの審神者だから。
信頼関係のしの字も無いのに、私を主としろ、だなんてとんだ驕りだ。
私がこの本丸に来て、数日が経った。
お互いがお互いを割り切って認識しているからか、形だけの主従関係でも然程苦ではない。
ここ数日の出来事と言えば、特にこれと言った事は無い。
嗚呼でも、こんのすけを此処で見かけた時に「…いたんだ、こんのすけ」と思わず呟けば、それが聞こえていたのか「審神者様ああああっ！」と泣きつかれた。
いやだってここに来た時居なかったじゃん、とは流石に言えなかった。また泣かれても煩いし。
後は、鶴丸が笑ったのは後にも先にもあの時だけだった。
あれからは、また淡々としている。
淡々としていると言えば何処か違う気もするけれど、兎に角淡々としているとしか言い様がない。
私の言った事に是も否も無ければ、頼んだ事は卒なくこなしてくれているし、聞いた事には知る限りで答えてくれる。
「審神者様、審神者様」
「うん？どうしたの、こんのすけ」
「此方を」
回想に耽っていたら、最初に見かけた時以来、偶に見かける様になったこんのすけに声を掛けられた。その口元には、書類だろう巻物が咥えられている。
それを受け取って目を通せば、気が付けば深い溜息を吐いていた。
嗚呼、げんなりする。
「…出陣要請なんて、どうしろって言うの。私が書類を書くだけじゃ駄目なの？」
「戦の本分は出陣ですから、こればかりはどうしようも無いかと」
「確かにその通りだけどさあ…」
私としては、鶴丸を出陣させたくない。
いや、鶴丸は刀剣男士であるから出陣させなければならないというのは頭では理解してる。してるけれど。
鶴丸の状況が状況だ。とても気が進まない。
けれど書類には政府の印が押されている。その事を考えれば、要請を無視する事は不可能だろう。
…嗚呼、気が重い。
「鶴丸。悪いけれど、出陣して欲しいんだ。良い？」
「出陣か？構わないぜ」
鶴丸を見つけて声を掛ければ、返って来たのは随分と軽い返事だった。
あまりの軽さに、こちらが拍子抜けしてしまうぐらい。いや、してしまった。
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詩月(プロフ) - 冷泉 雪桜さん» コメント有難うございます。この文体で書くのは初めてなのでそう言って頂けて良かったです(*¨*) (2020年1月12日 9時) (
レス) id: 47903b2cc4 (このIDを非表示/違反報告)
冷泉 雪桜(プロフ) - 初コメ失礼します。素敵な文章でとても感情移入しやすいですね♪今後が楽しみです。頑張って下さい (2020年1月9日 23時) (レス) id: 18535e1a43 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：詩月 | 作成日時：2020年1月6日 19時
