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審神者 ページ4






目の前の審神者が言った事に、俺は口元が弧を描くのを抑えられなかった。
きっと俺は、この時初めてこの審神者の前で表情らしい表情を浮かべただろう。



「へえ、何故そう思うんだい?正直に言ってみろ」


「…私の知る鶴丸国永という刀は、初対面の人にも好意的に接する。
貴方も、一見私に好意的な様に思える。けれど、それも思えるだけ」



そこまでを言っておいて、審神者は一旦言葉を区切る。
"俺" を相手にする事に、気を張り詰めているのだろう。唾を飲み込む音が此方にまで聞こえてくる。



「貴方の目には、私が映った事がない」


「何を言っているんだ?俺の目は確かにきみを捉えているだろう」


「違う。貴方の目は、私の姿をただ反射させているだけ。貴方の中に、私の姿は無い」



嗚呼、俺はきっと、ここまで気分が高揚した事は無かっただろう。
どうしようもなく、昂ってしまっている。

きっとこれは、"歓喜" だ。



「はっはっは!…きみは随分と面白い」


「…何が面白いの」


「いやぁ、きみの様な人間と会うのは初めてでな。
嗚呼、きみの言う通りだ。俺はきみに対してなんの感情も抱いていない」



今まで俺が見てきた人間の中では、この審神者の様な人間もいたかもしれない。
だが、顕現されてからは初めてだ。


これまで会ってきた奴らの中で俺の本質をほんの僅かですら見抜いた者は、いなかった。
俺を顕現させた奴も、政府の奴らも、誰一人として気付かなかった、俺の本質の片鱗に。


この審神者だけは、気付いた。会って間もないというのに。



嗚呼、実に愉快だ。
政府も随分と面白い人間を寄越してくれたものだ。





「きみとは、上手くやって行けそうだ」


「それはどうも。私も此処には形式上の審神者として来たから。
だから、私を主と呼ばなくていいよ。貴方も呼びたくないだろうし」


「有難くそうさせてもらおう」


その声に落胆の色などない。
元から形式上の審神者だと自覚があった訳か。益々面白い。





此処は元は政府持ちの本丸だ。
政府の管轄だからこそ管狐は連絡がある時にのみ、その姿を見せた。


そんな管狐から今朝方伝えられた、この本丸に審神者が配属されるという一報。
聞いた当初はなんとも思っていなかったが、それがこの審神者だと言うなら、重畳だ。



この審神者なら、退屈する事も無いだろう。
俺とて、退屈とは仲良くしたくないからな。





桜の花びらが舞っている様子が、視界の片隅で見えた。




 

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詩月(プロフ) - 冷泉 雪桜さん» コメント有難うございます。この文体で書くのは初めてなのでそう言って頂けて良かったです(*¨*) (2020年1月12日 9時) (レス) id: 47903b2cc4 (このIDを非表示/違反報告)
冷泉 雪桜(プロフ) - 初コメ失礼します。素敵な文章でとても感情移入しやすいですね♪今後が楽しみです。頑張って下さい (2020年1月9日 23時) (レス) id: 18535e1a43 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:詩月 | 作成日時:2020年1月6日 19時

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