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昏い紅 ページ3






…いや、冷静に考えよう。
たとえここに人が居るとしても、それが鶴丸国永とは限らない。
政府の人は鶴丸国永ただ一人だけが居ると言っていたが、目の前のその人が鶴丸国永とは限らない。うん。
後ろ姿の形が私の知る鶴丸国永と全く同じでも、だ。


後ろに立つ私の気配に気付いたのか、その人はゆっくりと此方を振り返る。
私の目がその人の目を捉えた瞬間、私は、自分の心臓がドクン、と嫌な音を立てたのが、聞こえた。





その人の目は、血を零した様に、紅かった。
紅く、昏く、濁っていた。





「きみが、こんのすけの言っていた審神者かい?」



嗚呼、その口から発せられるその声は、正しく、私の知る鶴丸国永そのものだ。



「貴方は、鶴丸国永、なの?」


「…きみは、政府から聞いていないのかい?」



不意に口から零れた、鶴丸国永なのか、という問い。
私のその問いに、目の前の彼は、表情を変えずに答えた。



「個体差が他より顕著、としか聞いていない」


「…まあ、俺のこの見た目はそうとも言えるな。
嗚呼、安心してくれ。俺はこんな見た目だが、確かに鶴丸国永だ」



目の前の彼は、淡々と、鶴丸国永だと名乗った。
であれば、やはり、私の知る鶴丸国永とは正反対の色をしている目の前の彼もまた、鶴丸国永、なのだろう。
見た目が異なって顕現される刀剣男士なんて、研修中ですら、聞かなかったけれど。







「いつまでも外に立っていてもあれだろう。中に入るといい」


「え…」


「きみは此処の審神者なんだろう?」


「確かにそうだけど…」


「なら入るといい。今から此処はきみの城だ」



訳が分からない。今の私の気持ちを表すならこの一言に尽きる。
彼は、鶴丸国永は、一体何を考えているのか。



「嗚呼、勘違いしないでくれ。
俺は別にきみを主と認めた訳じゃない。きみが此処の審神者だと言うから、きみをこうして屋敷に上げているだけだ。」


「…それは、私も分かってる」


「へえ、それは重畳。きみは思いの外自分の立場というものを理解しているんだな」


「貴方を見ていたら、分かる」



白ではない、黒の鶴丸国永。
瞳の色は、血を零した様な、昏く濁った紅。


どんな事情があって、貴方がそうなったかなんて私には分からない。
けれど、これだけは分かる。



「貴方は、私に対して、なんの感情も抱いていない」



良くも悪くも、彼は私に何も感じていない。
私がほんの少しのやり取りで分かったのは、これだけだ。




 

審神者→←個体差



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詩月(プロフ) - 冷泉 雪桜さん» コメント有難うございます。この文体で書くのは初めてなのでそう言って頂けて良かったです(*¨*) (2020年1月12日 9時) (レス) id: 47903b2cc4 (このIDを非表示/違反報告)
冷泉 雪桜(プロフ) - 初コメ失礼します。素敵な文章でとても感情移入しやすいですね♪今後が楽しみです。頑張って下さい (2020年1月9日 23時) (レス) id: 18535e1a43 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:詩月 | 作成日時:2020年1月6日 19時

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